正直もうやれること思いつかないし、今年からスルーするか…と思っていたアニス誕ですが、28話感想を保留したままなのを思い出したので、この機会に徹底的に考察しようと思った次第。かなり以前に考察した時にも書きましたが、28話はそれまで伏せられていた「アニスがボーグマンになった理由」と彼女の成長が描かれた回。脚本はもちろん、作画、演出共に神回レベルの内容ですが、同時にアニスというヒロインが、作品の解釈で折り合いを付けられないままだった根岸監督と園田氏の間に、更なる不協和音を呼び込んでいたことが窺える回でもあります。
28話の感想を語る前に、28話の主軸であるアニスの設定の情報の整理、そこから浮かび上がるモノの確認から始めようと思います。
先ず28話が放映されたのは1988年10月26日。その前後のアニメ誌のアニスの採り上げられ方ですが、
アニメージュ11月号→菊池通隆特集
アニメージュ12月号→別冊付録「アニスにおまかせ!」
アニメージュ89年1月号→アニスカレンダー
アニメディア89年1月号→「バイバイ、アニス」特集
ニュータイプ12月号→アニスすっぽんぽんポスター
OUT12月号→28話特集+すっぽんぽんイラスト
これらより少し前のアニメディア9月号の別冊付録では、園田氏によるアニスの短編小説「アニス、夏のダイアリー」が掲載されており、ここで28話の一部ネタバレがされてます。この記事に掲載しております。
【付録】続・アニメディア1988年9月号【小説】
8月発売の雑誌付録の時点で、園田氏はアニスの過去を「早バレ」したことで、先手を打ったように思えます。後の根岸監督のインタビュー等では、監督には園田氏とは異なるアニス観及び設定があったようで、園田氏は根岸監督に異を唱えられる前に、「先にやったもん勝ち」で、この小説の内容を以てアニスの過去を公式化する意図があったと思われます。
話を戻して。上に記しただけでも、各アニメ誌の10月号〜89年1月号までのアニス関連での盛り上がりの凄まじさが窺えます。特にアニメージュの別冊「アニスにおまかせ!」と89年1月号のアニメディアのアニス特集は園田氏の独壇場と云っても過言ではないレベルで、「園田プロデュースによるアニス・ファーム像」が語られています。
特集記事を通じて、園田氏が特に強調した設定が
・アニスは歌手になる夢を抱いており、オーディションを受けるために来日して事故に遭遇し、ボーグマンとなった。その夢を諦めておらず、妖魔を倒したらまた歌手デビューを目指す。
・アニスはリョウに魅かれているとも云えるし、そうでないとも云える(サム8ステイ)。
前者の歌手云々は、初期からあった設定を残していたと思われます。一方で、園田氏は矢尾一樹氏のアルバム制作に関わる等、あの当時ではまだ珍しかった声優プロデュースを手掛けており、水谷優子さんともクロ逆から「単独デビュー」を果たしたレイナを共に作り上げ、メディアミックス化を進めておられました。アニスの歌手志望設定は、本編終了後にアニスをレイナと同様にコンテンツ化するために不可欠になったのでしょう。
勝手な想像ですけど、園田氏は「妖魔のいない平和なメガロシティで、歌手として忙しい日々を送るアニス」を、鷹森さんの協力を得て後日談として発表したかった。それを主軸としたメディアミックスを構想していたんじゃないかと思ってます。実際それを成したレイナは絶好調でしたし。既にレイナ以上の人気とポテンシャルがあったアニスで、「NEXTレイナ」をやらない理由はありませんでしたし。
しかし、本来は恋愛要素を入れる予定がなかったボーグマン3人の間に桂美姫が入り込み、チャックと恋仲になってリョウとアニスが接近するという路線変更が、園田氏にとってネックになったと思われます。アニスの単独プロデュースをやりたい園田氏にとって、リョウとの恋は邪魔な要素。だから念入りにリョウとアニスの関係を否定されていたんでしょう。
長くなるので根拠は別の機会で書きますが、根岸監督も当初はやる気のなかった恋愛要素は(オレンジロードのPでもあった)堀越Pがねじ込んだのではないかと推察してます。
園田氏のリョウとアニスの関係に関するコメントの変遷(再掲)。アニメージュ10月号のコメントは何度読んでも不可解で首を傾げる。本編では既にチャックと美姫の関係は順調に進行しており、ボーグマン3人に「ドロドロした三角関係」は起こり得ないことになってました。ここで挙げられている「冒険者たち」はジリオンスタッフも意識していた映画ですが、そこまでは手を入れられずホワイトナッツの三角関係は「匂わせ」で終わったようです。でも園田氏の場合、放映が予定通り3〜4クールだったとしてもやらなかったと思いますけど。
そこもさることながら、リョウとアニスのコメントの温度差が腹立たしい。リョウが馬鹿で短気に見える回って、岸間&会川脚本回では特に見当たらないし、アニメージュ12月号では演出の加戸氏がリョウの思慮深さを語っておられてるしで、園田氏は一体リョウの何処を見ていたのか。やっぱり夏目想太郎の影ですかねえ。
まだこの時は打ち切りがちらつけども時期が決まっておらず、根岸監督よりも作品の手綱を握れる立場にあったと思われます。この辺から園田氏はボーグマン本編よりもアニスに強く魅かれ始めたのではないかと。
メージュ12月号付録の「アニスにおまかせ!」では、リョウとアニスの接近は認めつつも「もう尺がないので描けません(意訳)」。各アニメ誌の12月号は28話の放映後に発売されており、「アニスにおまかせ!」は28話で描かれなかったアニスの過去の補完と、彼女が歌手になる夢を抱いている等、「園田版アニス・ファーム読本」としては究極の1冊。しかしここで発表された一連の設定、根岸監督をはじめとするボーグマンスタッフがどれだけ認知していたかは大いに疑問(たぶん全員寝耳に水だったと思われ)。
でもアニスファンにとって、この本の価値は菊池氏の描き下ろし部分にあり、園田氏の設定を公式として認知していたかは怪しいですけど。
放映終了直前のアニメディアのアニス特集とホビージャパンEXのコラム。本編は根岸監督に主導権が移り、園田氏の手から離れていたと思われます。
ホビージャパンEXのアニストークと併せて読むと「アニスにとってリョウへの思慕は一時の気の迷いで、本当の恋の相手はこれから出会うリョウ以外の誰か。そしてアニスはすべての男性にとっての“母親”となる」というビジョンを思い描いていたことが窺えます。
後日談のラストバトルが「リョウとアニスの恋愛」にスポットをあてた内容なのは早い時期から確定していたので、それに対する牽制だったのではと思えます。ホビージャパンEXのコラム自体、「ボーグマンの原作者は自分であり、自分がノータッチのラストバトルはばったもん」と云いたげですし。
ブルーレイBOXのねぎし監督インタビューから引用。
ボーグマンは元々4クールの予定が3クールに変更になったこともあって、総話数が不確定だったのですが、28話ぐらいの時期に全35話になることがほぼ確定しました。最後のまとめ方については、読売広告社のプロデューサーに自分が考えていた案を話したところ「それいいよ。絶対にいいからそれでいこう」と言ってもらえたので、その28話ごろのタイミングで「最終話の脚本は自分に書かせてほしい」とみなさんから了承を取りました。そこからは、最後に向けてこれまでの伏線を回収しつつ、だんだんとまとめていきました。
いろいろと舞台裏が勘繰れる内容ですが、作品の構成的に、28話がちょうど「作品の転換」だったのは確かなようです。総話数が確定する前に、園田氏は雑誌媒体に進んで「アニスの」情報を提供し、「アニスの主導権の掌握」に王手をかける。その意図が28話にはあったと思えます。園田氏がメインで関わった作品の傾向からしても、最終回は園田氏が手掛ける予定だったと思われるので、そこで(最終回で人間化したレイナのように)「物語の終焉、そして園田ヒロインとしてのアニスの再スタート」が描かれるはずだったんでしょう。
根岸監督の後半での介入をどれだけ想定していたのかは知る由もありませんが、アニスだけは確保できるよう外堀を埋めていたんじゃないかと思います。脱線しちゃうので深追いしませんが、インタビューの抜粋部分、園田氏には葦プロの加藤Pが付いていた(園田氏の参加は加藤Pの指示だったそうなので)のに対して、根岸監督は読広のPのバックアップで、園田氏から作品の主導権を取り返したと取れるので、その辺での葦プロと読広の力関係がちょっと気になります。
正直、アニス以外に関しては園田氏のコメントがぞんざいになっていってたので、本編以降の「アニスアフター」に心が飛んでいたんじゃないかと思えます。剣狼シリーズの版元であるユーメックスの関係者も「第二のレイナ」として、園田氏を通じてアニスの取り込みは期待していたと思われますし。
ここまで周到にアニスの独占を仕掛けていたのに、結果的に頓挫した理由の考察は(モチベが保てれば)近日中に。次回は本題の28話感想です。園田氏のアニスへの過剰な思い入れを踏まえて見ると、28話は「剣狼伝説3」のプロトタイプと云えなくもないですね。