連載3回目です。普通の記事も更新したいのですが、ここ数週間ずっとメンタル不良状態で、エンジンがかかりにくくなってるので書き貯めてて良かったという本音。らくがきもほとんどできてないんですよ…(´・ω・`)時間ができる次々回ぐらいから何かネタを用意したいと思っております。いい加減部屋のあちこちでバベルの塔化している昔のアニメ雑誌を整理したい。
今回の分でどういう話かお分かりいただけると思います。しかし一気に書き上げたせいで、どこで切ってアップするかで迷いますなあ。
あ、マリス周辺の設定に関してですが(ボーグマンも同様ですけど)、この作品仕様にちょいちょい改変してます。ツッコミを入れようとするあなたの心にザ・松田。いいですね?
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【惑星マリス/ホワイトナッツ基地】
「…事情は理解したよ。正直…まだ信じられないけど」
アニスの目の前にいる青年はそう云って、手の中にあるソニックレシーバーに目を落とした。
ふくよかな巨体にオレンジ色のくせ毛、いかにも人の好さそうな柔和な顔立ちの彼は「デイブ」と名乗った。彼は先刻まで、アニスの所持品であるソニックレシーバーを前に、「こんな技術は初めて見た!」「すごい! すごいよ!」とハイテンションであれこれと調べまくり、今やっと落ち着いてアニスの話を飲み込んでくれたのだ。彼はどうやら相当腕の立つメカニックらしい。
ジャングルでの慌ただしい出会いの後、アニスは彼らの「基地」に連れてこられた。
さすがに入念な事情聴取や身体検査をされたが、それでも彼らは紳士的にアニスを扱ってくれた。その際に自分がサイボーグであることも知られたが、彼らはさほど驚かなかった。あの角を持った“ノーザ”がサイボーグだったと後で聞かされたので、そのせいなのだろう。。
「信じられないのは当然だと思うわ。私もまだ、この状況を信じられないもの…」
「ああ、そういう意味じゃないよ。この技術のことさ。アンビリーバブル! …って気分だよ」
気を使ってか、デイブはおどけた云い方をした。
「このメカと君は、ボクらにもノーザにもないテクノロジーが使われている。君が出てきたあの空間の歪みも、データを分析してもらったけど皆目見当もつかないそうだ。君の話を信じるところから始めないと、何も解明できそうにない」
まだ表情から固さが抜けないアニスに、デイブは励ますように続けた。
「アニス…だったね。上司に掛け合って君の身の安全を保証する。だから、このソニックレシーバーをボクに預けて、徹底的に調べさせてくれ。…安心して。壊したりしないから」
「ええ、構わないわ」
「これを調べれば、君のいた世界にコンタクトを取る方法も分かると思うんだ」
「え…協力して、くれるの?」
「君もノーザに遭っただろう? ボクたちの世界はあいつらに脅かされている。人類の未来のために、もっと技術が欲しい。…いや、」
デイブは少し、ばつの悪そうな微笑みを浮かべた。
「ボクはどーしても、これを作った君のリーダーに会いたい、いろいろ教えて欲しい。技術者としてこの好奇心が満たされるまで、諦める訳にいかないね!」
素直に本音を打ち明けたデイブに、アニスはやっと安堵を覚えた。
「ありがとう、デイブさん」
「デイブでいいよ。他の連中にもかしこまらなくていいからね。…ああ、このままじゃフェアじゃないな。ボクらのこともちゃんと話しておこうか…」
***
デイブとアニスが武器開発ルームでそんな会話をしている間。
JJは「ホワイトナッツ」基地のミーティングルーム内を落ち着きなくウロウロしていた。
(デイブの奴、あの娘といつまで話し込んでるんだ)
あの娘の名前は「アニス・ファーム」。
JJの理想を具現化したような“むちむちギャル”。
現時点では、それ以上のことは分からない。アニスにホワイトナッツ基地への同行を促しビッグポーターに乗っている間、アップルの厳しーい牽制によってアニスとは会話どころか、近寄ることもままならなかった。
「いい加減大人しく座っとけ。鬱陶しい」
ソファに深く背中を預け、コーヒーを口に含んでいたチャンプが、カップをテーブルに置いた。
その横ではアップルが端末を打ち込んで、アニスに関するデータをまとめている。彼らの上司であるMr.ゴードへの提出用だ。
「あの2人は大事な話をしてるんだから、邪魔しに行かせないわよJJ」
2人とも馬に蹴られて死ね、いや死ねはやばいか、などと間の抜けたセルフ問答をしたJJは、気になっていたことを口にした。
「ここに連れてきたのはいいけど…あの娘、結局どうなるんだ?」
「Mr.ゴードを通じて司令部に引き渡す。後は科学アカデミーにお任せ〜…が妥当なとこだな」
「…でも」
アップルが咎めるように、横目でチャンプを見やる。
「司令部に引き渡したら、彼女を人道的に扱うことは絶対にしない。未知のテクノロジーの塊だもの。どんな扱いを受けるか…」
「なっ…そんなの駄目だ!」
「そんなの駄目よ!」
JJの叫びと被った声は、先ほどまでアップルと共にアニスの身体検査を担当していたMr.ゴードの秘書・エイミのものだった。アップルから報告書を受け取りに現れたのだ。まだあどけなさを残す童顔を切なげに歪め、小柄な体を揺らしてJJたちに訴える。
「あのひと、事故でこの世界に飛ばされただけなんでしょう!? だったら元の世界に返してあげないとかわいそうじゃない!」
アニスから聞き取りも行ったエイミは、すっかりアニスの境遇に同情したらしい。
「彼女の話が本当ならな」
チャンプの冷静な声が、エイミの感傷を否定する。
「チャンプ? お前まだあの娘を疑ってんのかよ!?」
「ノーザに利用されてないって云えるのか? 自覚のない洗脳だってあり得る。だいたい」
チャンプは立ち上がり、びし! とJJの鼻先に指を突き付けた。
「お前は女に関して学習能力がなさすぎる。ミンミンの一件、忘れたとは云わせねえぞ」
「それはないと思うわ」
チャンプの適格なツッコミのせいで、んぐぐ、と言葉を失ったJJに助け船を出したのはアップルだった。
「私たちが話をした限りだけど…彼女に不自然な言動はなかったわ。それにミンミンの件があるからこそ、ノーザがここまで手の込んだ罠を仕掛けるとは思えない」
「そーだそーだ! この分からず屋にもっと云ってやれアップル!」
「…オレは然るべき対応を述べたまでだ。だが、彼女の面倒を見るのはオレたちの仕事じゃないだろう? そんな余裕をノーザが与えてくれるとでも?」
そこでエイミが口を挟む。
「デイブが云ってたわ。彼女が持っていた通信機とサイボーグの技術、ノーザに差をつけるチャンスになるかもって」
「…彼女からノーザ・ウォリアーズに対抗できる手段を探れるかも知れないってことね」
「よっしゃ決まり! 多数決で分からず屋の誰かさんは無視!」
3人の視線の圧力を前に、チャンプは両手を広げ大袈裟にため息をついた。
「…多数決だろうがオレは賛成できない。他の部署に任せた方がいいと思ってる」
「なっ…! この頑固モン!! お前にはヒトの血が流れてないのか!!!」
「…前にも似たようなことを云われたな。最後まで聞けよ。彼女が云ってたオレにそっくりっていう“チャック”が本当にいるのか、…それが確認できるまで、この件は保留で構わないぜ」
「…素直じゃないのね」
アップルは小声で返し、とんとん、とプリントアウトした報告書を膝の上でまとめた。
「できたわよエイミ。一緒にMr.ゴードのところに行きましょう」
***
「未来の惑星…か…リョウだったら大喜びするわね…」
デイブと話をした後、基地内の個室に移動させられたアニスはそう呟く。
デイブはアップルと長官の秘書だという小柄な少女・エイミと共に、自分のことで長官と話をしに行ってしまった。
個室にはベッドにトイレと、宿泊に必要な設備は一通り付いている。冷蔵庫の中に食事も用意してくれている。だが、それは「ここから出るな」というサインでもあった。
ベッドに腰掛け、デイブが教えてくれた情報を頭の中で整理する。
この地は地球から遠く離れた「第二の地球」と呼ばれる惑星・マリス。
西暦2387年の未来の世界。
だが、アニスがいた世界とは次元を異にしているかも知れない。…とデイブは語っていた。
彼らは「ホワイトナッツ」と呼ばれるマリス軍所属の特殊戦闘チームであり、アニスの世界に妖魔がいたように、彼らにも異星から襲来した敵がいて、激しい戦いを続けているという。
その敵があの“ノーザ”だった。妖魔に優るとも劣らない戦闘力だったとアニスは分析している。
(似たような世界に来ちゃったわね…)
アニスは深くため息をつく。デイブの優しさには励まされたが、この世界の科学力はメモリーの技術に及んでいない。いくらデイブが優れた技術者だとしても、アニスのいた世界とのコンタクトにはかなりの時間がかかるだろう。
その間に。
彼ら以外の軍関係者に“サイボーグ”である自分の存在が知れたら、とても抗えない。自分を部品だと云った、あの角を持つノーザがまた襲ってくる可能性だってある。
アニスの心に不安が広がっていく。敵の罠で孤立する状況は初めてではない。だが、必ず助けに来てくれた仲間たちは、距離も時間も遠く、遠く離れた場所にいる。
(リョウ…)
アニスは最後に見たリョウの姿を思い返す。必死で手を伸ばし、自分の名を叫んでいた。彼のことだ。きっと、こうなってしまったことを悔やんでいる。
せめて、自分が無事でいると知らせることができるなら―――
歯がゆい思いに沈み込みそうになったその時、誰かの来訪を知らせるインターフォンが鳴った。
デイブか、アップルたちか。
アニスがドアを開けると、リョウと同じような東洋人系の顔立ちをした青年の、にぱぁ、と笑う顔が視界に飛び込んできた。
「やっほー! ご機嫌いかが? アニスちゃん」
「…あなたは」
確か。
ジャングルで後から来てはしゃいでいた彼だ。確か“JJ”と呼ばれていた。ビッグポーターというあの輸送機に乗っている間、ずっと自分の胸に露骨な視線を向けていたので、あまりいい気分のしない男性だったが…。
「んー?」
アニスのうっすらとした嫌悪感をヨソにJJは無遠慮に彼女の顔をのぞき込み、ちっちっち、と指を振った。
「ダメダメ! 可愛い子がそんな暗い顔するの禁止! …よーし、どっか遊びに行こう」
JJはアニスの手を掴む。
「え? ちょっと待って、勝手にそんな…」
「だーいじょーぶ! 責任は全部このJJ様が取ってあげるから!」
「ちょ、…え、えぇえ!?」
アニスの逡巡などどこ吹く風で、JJは強引に彼女の手を引っ張り、廊下から基地の外に繋がる通路へと駆け出した―――。
【惑星マリス/植民記念公園】
「…美味しい! この世界にもクレープはあったのね…」
アニスは目を輝かせて、チョコバナナクレープをもう一口齧った。
「だろ? だろ? アニスちゃんはこういうのが好きだと思ったんだよ!」
やっと素の表情を見せてくれたアニスを前に、JJのテンションがさらに上がった。
陽は地平に沈みそうになっているが、それでもまだ柔らかな光を周辺に落としている。
JJがアニスを連れ出した先は、JJにとって少し苦い思い出を残す植民記念公園。
大きな噴水が目の前にあるベンチで、2人は座ってクレープを手にしていた。
そこに落ち着くまで、JJはアニスをエスコートし、ホープシティの人気スポットを案内した。
最初は、彼女と2人きりになりたいだけだった。
やっと出会えた理想のむちむちギャルなのに、ビッグポーター、そして基地に着いた後も、アップルをはじめ仲間たちの強固なガードのせいで近寄ることもできなかった。
しかしその邪魔者たちは今Mr.ゴードの元に行っている。お近づきになる絶好のチャンスを逃す訳にいかなかった。
つん、とテントのように頂点を張らせた服越しの胸の質感、ミニスカートからのぞく太腿、女の子の甘い匂いをやっと堪能できる。そんな下心満載で彼女を連れ出したのだが―――
どこに連れて行っても緊張を解こうとおどけても、アニスに纏わりつく寂しげな空気のせいで、JJの邪な思いは次第にしぼんでいった。
「良かったー、やっぱ食い物の力は偉大だな」
「…それ、私が食いしん坊に見えたってこと?」
アニスが軽くJJを睨む。だが、口調からは彼に心を許し始めていることが窺えた。
「違うよ! 人間ってさ、お天道さんの光を浴びて、美味いもん食ってないと心が弱ーくなるようにできてるんだ。まず元気出してもらわないとな!」
そう云ってJJも勢いよくクレープに齧りついた。その勢いが仇になり、クレープが思いっきりJJの喉に詰まった。
「ちょっ…JJ、大丈夫!?」
みるみる顔を土色にしていくJJにアニスは驚き、咄嗟に彼の背中をさすり顔をのぞき込んだ。
「っぐぐぐぐ…っ…んンっっ…、ぷはぁ、…だいじょ…ぶ」
何とかクレープを嚥下させたJJの涙目と、気づかわしげなアニスの目が合う。間近で見る彼女はやはり愛らしく、首筋や柔らかそうな胸元から漂う甘い匂いが、JJの鼻腔を刺激した。
どきり。
オスの本能を突かれたJJの手が、弱ったフリのどさくさでアニスの肢体に向かおうとした瞬間―――
「あー! JJ!!」
不意打ちの声に思わず手を引っ込め、正面に顔を向けたJJの視界に飛び込んできたのは、ベリーショートの髪とデニムのオーバーオールがトレードマークのボーイッシュな女児・アディだった。JJに懐いている彼女は、嫉妬交じりのジト目で彼とアニスを睨んでいる。
「まーた女の子ナンパしてるー! どーせ振られるのに懲りないんだからー!!」
「う、うっせーよアディ! お前何でここにいるんだよ!?」
アディはにぱーと嫌な笑顔を浮かべ、鞄から学校のドリルを取り出した。
「JJを呼ぼうかなーって思ってたら会っちゃった。算数の宿題手伝ってよー」
「自分のことは自分でやりなさーい。見ての通り、オレは忙しいの」
「ナンパのどこが忙し…、えっ!?」
アニスにきつい視線を向けたアディのぎょっとした表情に釣られ、JJもアニスを振り返った。
アディに釘付けになっていたアニスの瞳から、涙がぽろぽろと零れていた。
「あ、アニスちゃん!?」
「ち、ちょっとお姉さん!? どうしたのさ? あたいヘンなこと云った?」
「ううん…ごめんなさい」
手の甲で涙を拭い、アニスは笑顔を作りアディを手招きする。
「あなたの声、私の生徒にそっくりだったから、ちょっとびっくりしちゃって…ごめんね、驚かせちゃって」
「「生徒ぉ?」」
JJとアディの疑問の声が被る。
「あ、JJにはまだ云ってなかったわね…私、元の世界では小学校の先生をしてるの。数学を教えてるのよ」
「なんと、女教師!?」
「ウッソだぁ。お姉さん、どう見てもJJと同じぐらいの年じゃない」
「ウソじゃないわ。…証拠を見せてあげる。そのドリル、ちょっと見せて」
アディを隣に座らせ、アニスはドリルを膝の上に広げた。
「…あら、空白が多いわね。アディ…って云ったわね、算数は嫌い?」
「勉強はぜーんぶ嫌い」
3の字に口を尖らせたアディの様子にアニスはふふ、と優しく笑う。
そうか、彼女はこんな風に笑えるのか、とJJは思った。
「じゃあ、算数を好きになれるよう、今からおまじないをかけてあげるわ。算数ってね、コツが分かったら本当に面白いんだから」
あのね、ここは…とアディを抱き寄せ、一緒に問題を解き始める。最初は疑いの目でアニスを見つめていたアディだったが、次第に彼女の“授業”に引き込まれ、熱心に鉛筆を動かすようになっていった。
そんな2人を横で見守っていたJJの胸の中で、ある感情が急速に膨らんでいた。
見知らぬ世界に放り出され、孤独に耐えている女の子。
寂しさを湛えた瞳。
アディの声で見せた涙。
だけど今、アディに見せている先生の顔は、本当に優し気で、楽しそうで。
(あ―――)
JJはアニスの一挙手一投足に、心が震えている自分に気が付いてしまった。
顔の火照りが、胸の動悸が止まらない。
(ごめんよ、セシルちゃん)
純愛を(勝手に)誓っていた女優への謝罪は、新たな恋の始まりを意味していた。
(続く)
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