はい4回目です。起承転結で云えば承が終わった辺りで、ここで折り返しとなります。
もうお分かりかと思いますが、この話の主人公はJJでヒロインはアニスです。スパロボとかナムカプとか、作品の壁を越えたカップル妄想が特に珍しくもなくなったこのご時世が非常にありがたい。もうひとりの主人公はどうなるのか。寝取られは彼の十八番なのはボーグマンのえっちなうすいほんを持っている人たちにとって周知の事実(何だと)。
この辺含めて最後までお付き合いいただけると幸いですが、今現在の展開はJJ×アップル派の方々に不快な思いをさせているのではと思うと申し訳ない。わたくしあくまで公式至上主義ですよーとだけ。
そして今回最高にうそんこなでっち上げ設定が出てきます。ディープなジリオンファンの方からクレームいただきそうですが、合言葉はザ・松田! ザ・松田です!(しつこい)
諸事情で月末まで自宅警備員となり、7月から忙殺される予定なので今月は更新頻度を増やしたく思っております。小ネタからくがきを優先したい。この際だからめっちゃ遊びたいんですが、部屋の整理と家事で終わっちゃうだろうにゃー。
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【メガロシティ/サイソニック学園】
アニス消失から3日目。
サイソニック学園では、アニスの替わりに林マリモ先生が教壇に立っている。
子供たちを心配させないため、アニスは別の学校に研修に行ったことになっており、ボーグマンの正体を知っている唯一の男子生徒・織田シンジにも本当のことは打ち明けてなかった。
「…お前、大丈夫か?」
授業を終えたリョウを職員室で出迎えたチャックは、そう声をかけた。
一見するとリョウに特に変わった様子はない。授業も普通にこなしている。だが、あの日から彼はメモリーの作業に付き合いっぱなしで、寝ている姿をチャックは見ていない。
サイボーグの体ゆえ、多少の睡眠不足は問題ではない。だが。
チャックの懸念は、ここまで不眠不休でアニスを探しているにも関わらず、目立った進展が見られないことだった。
アニスの変身が阻まれた際に、バルテクターに微小ながら付着していた物質と、リョウたちがアニスが消えた現場で探し回り、持ち帰った物質は同一のものだった。進展と呼べるのは、それが判明したことぐらいだ。
物質を解析することで、アニスが飛ばされた時空をある程度特定できるかも知れない。そのために、世界警察が所有するスーパーコンピューターの貸し出しを、チャックはファントムスワットの女隊長・桂美姫に頼み込んだ。
「世界警察への転職」を交換条件に出されると思っていたが、美姫はあっさりと了承した。それだけでなく、美姫の実家である「桂コンツェルン」の系列会社が開発した最新型の端末も提供してくれた。
『貯まった借りを一括払いするだけよ。あなたたちを認めた訳じゃないわ』
そう云いながらも、進展をしきりに訊ねてくる美姫にチャックは救われていた。
だが、リョウは。
「…腹減った」
気だるげな声でリョウはチャックに答えた。
「じゃあ食え」
チャックは手元にあったスティック状の携帯食をリョウに放り投げる。リョウはそれをキャッチして口元に持って行ったが、力なくその手を下ろした。
「…駄目だ、食う気しねえ」
「腹が減ってはなんとやらだ。いくらサイボーグでも身が持たなくなるぞ?」
「…分かってる」
リョウが顔を向けた先には、本人不在が続くアニスの机があった。
そう云えば。
いつからか、アニスは毎日リョウに弁当を用意するようになっていた。リョウが夕食はジャンクフードで済ませてしまうことを咎め、小言交じりに彼に持たせていたのだ。チャックもその恩恵にあずかっていたが、弁当箱のサイズは明らかにリョウの方が大きかった。
(…いなくなって初めて分かるありがたみ、ってヤツか)
「腹減ったなぁ」
小声でそう呟いて、自分の机に突っ伏したリョウをチャックは黙って見つめていた。
***
校長室では、椅子にもたれていたメモリーがしばしの仮眠から目を覚ましていた。だが、疲労はまだ体の底に溜まったままだ。
桂美姫の協力で、つい先程アニスを飛ばしたと思われる物質の解析に成功した。
だが、それは時空の絞り込みが見えてきただけで、特定はまだ遠い。
現状で考えた策は、バルテクターでブーストしたボーグマンのソニックパワーを、転送システムを通じてその方向に送り込んで“呼びかける”。
それをアニスのソニックレシーバーが受け取るのを待つ。それだけだった。
(…アニス)
いま一体どんな状況下に彼女はいるのか。せめて安否だけでも分かれば。
心に忍び寄る焦燥を追い払うように、メモリーは通信ボタンを押し、リョウとチャックを呼び出した。
【惑星マリス/ホワイトナッツ基地】
『オパオパ、アニス、オハヨウ、オハヨウ』
「おはよう、オパオパ。…やっぱり可愛いわね、あなた」
アニスは目の前でふわふわ浮かんでいる、卵を横にして小さな羽根を付けた形状のカラフルなロボット・オパオパに微笑みかけた。
オパオパはアニスがベッドから降りて身支度を整えている最中に訪れた。
『アニス、デイブ、ヨンデル、ヨンデル』
「分かったわ。ちょっと待ってね」
惑星マリスに迷い込んでから4日目。アニスは現在、アップルの部屋に居候している。あの日、アニスがJJに連れ出されている間、デイブとアップル、エイミはホワイトナッツの司令官・Mr.ゴードに事情を打ち明け、アニスを司令部には内密にホワイトナッツの保護下に置くようにと訴えた。
『…アップル。君には遠方から訪ねてきた“友人”がいたな。折角の機会だ。もてなしてあげなさい』
話を聞き終えたMr.ゴードはしばし黙考し、穏やかにそう返答した。その時からアニスはアップルの“友人”としてマリスベース内で振舞っている。ただし、外出はホワイトナッツメンバーの同伴を必須とした。
男2人に挟まれている環境が同じなせいか、アップルとは話が合うことが多く、今では演技の必要もないほどに心を許し合っている。エイミも交えて、毎晩のようにアップルの部屋で盛り上がっていた。
だが。
チャックによく似たあの青年―――チャンプはまだ自分を警戒している。表向きは紳士の態度で自分に接してくれているが、言葉や視線の端々に探られるような何かを感じていた。
ドレッサーの前で整えた髪を確認し、アニスはオパオパを振り返った。
「お待たせ。じゃあ行きましょ、オパオパ」
「…消極的な方法で済まないが、今はこれしかないと思うんだ」
武器開発ルームで、アニスはデイブの話に耳を傾けている。
彼にソニックレシーバーを託し、メモリーの受け売りの科学知識を提供したことで、デイブはアニスが元の世界に戻る為の策を考慮し提示してくれた。
結論としては「元の世界からの通信を待つ」。
ソニックレシーバーを調べて得た技術から、にわかではあるがデイブなりに転送の理論を構築した。それを基に、未知の電波をキャッチできるようソニックレシーバーの受信機能に手を加え、最大限に高めておく。送受信が成立したら、それが“通路”になるはずだ。
「ボクの転送理論と、ミス・メモリーの理論とでは誤差は当然あるだろう。時間はかかるだろうけど、待つ方がいい。下手なことをすると、このレシーバーにどんな影響を及ぼすか分からないからね」
「ええ、…本当にありがとう。あなたたちがいなかったら、私…」
「お礼を云われるのはまだ早いな。まだこれからだからね。…それに、ボクはもっといい方法があると思ってる。それを見つけるまで、これはまだ預からせてもらうけど、いいかな?」
デイブはデスクの横に置いてあるソニックレシーバーに視線を向ける。
「いいわよ。…ねえデイブ、今日はアップルたちがいないからどこにも出かけられないし、何か手伝わせて欲しいんだけど…」
『オパオパ、アニス、オテツダイ、オテツダイ』
デイブとアニスの頭上を、オパオパが楽しげに旋回していた。
***
「ただいまー、アニス!」
「お帰りなさい、アップル! みんな!」
夕方のホワイトナッツ基地。まるで新婚夫婦のように、アップルとアニスは笑顔で抱き合う。任務を終えて帰還してきたホワイトナッツの3人を、アニスがミーティングルームで出迎えたのだ。
アニスとの出会いの後、ノーザは目立った行動を起こしていない。ホワイトナッツの任務は正規軍のサポート程度に留まっている。ノーザ・ウォリアーズが仕掛けてくる様子も今のところ感じられなかった。
「お腹空いたでしょ? エイミと一緒にシチューを作ったから食べて」
「本当? お腹ぺこぺこだったから嬉しい! ありがとうアニス。最高のお嫁さんをもらった気分だわ」
「そんな風に云ってもらえるなんて私も嬉しいわ。…お礼なんて、ロクに云ってもらったことないし…」
誰を思い出したのか、ちょっと拗ねたようにアニスは俯く。
「チャンプとJJも食べるでしょ?」
アップルは後ろの2人を振り返る。チャンプはいまだにアニスと距離を取っている。仲間の男に似ているらしい彼の態度は、アニスにとって気持ちいいものではないだろう。
「…エイミが立ち会ってるんだろう? ありがたくいただきますって」
「もう、そんな云い方…」
「…あの」
「いいのよアップル。チャック…あ、ごめんなさい、…チャンプは間違ってないわ」
「…チャック…ねえ……体育の先生、だっけ? そんなに似てるのか…」
「あのさ」
「気になるならもっと素直になって聞いたら?」
「いやいや、いくら世の中には自分に似た人間が3人はいると云っても、こんな二枚目がそうそういる訳がないだろう?」
「認めたくない訳ね。器がちっちゃいこと」
「そそそ、そんなんじゃ」
「あのさ! アニスちゃん!!」
チャンプの隣で口をもごもごさせていたJJが、チャンプとアップルのやりとりに大声で割って入り、こわばった表情でアニスに話しかけた。
「なあに? JJ。シチューならたっぷり作ったから、おかわりいっぱいしていいわよ」
「そ、そーじゃなくて! …あの、いつもの…」
「“授業”? もうすぐ夕方だけど、大丈夫かしら?」
「だ、だいじょーぶ! 陽が落ちるまでまだ時間あるから! …アディも楽しみにしてるみてーだし…」
「そう、じゃあ後で連れていってね。ご飯食べるでしょ? すぐ準備してくるわね」
そう云って小走りにミーティングルームから出ていったアニスの背中を見つめていたJJの口から、聞えよがしなため息が漏れた。
「…知らなかった。世界ってバラ色だったんだな…生きてて良かったぁ…」
上気した頬を両手で覆い、うるんだ目で虚空を見つめるJJの様子を、アップルとチャンプは半目で見ていた。
「…重症ね」
思えば。
Mr.ゴードにアニスの保護について掛け合った後、彼とアニスを引き合わせようとしたら、JJが独断でアニスを連れ回していた。当然、アップルは激怒し戻ってきた彼に雷を落としたが、JJはまったく上の空。それ以来アニスに対してはずっとこの調子だ。
厄介なのは、今までのJJなら、スキンシップという名の胸やお尻のタッチが日常茶飯事だったのに、アニスには妙に慎重で億劫になっている。彼女の言葉や仕草に赤面しうろたえる様子は、セシルやミンミンにのぼせ上った時の比ではなかった。
と、JJはふらふらとミーティングルームから出ていこうとする。
「JJ?」
「アニスちゃん手伝いに行ってくる…」
そう云い残したJJがドアの向こうに去った後、アップルはチャンプと目を合わせた。
「どう思う?」
「どうもこうも、いつものパターンで終わるだろ? 彼女は元の世界に帰っちまうんだ。デイブの策が上手くいけば、の話だがな」
「そうね。…でも」
アップルの胸に嫌な予感がよぎる。
「JJ、思い込みが激しいところがあるから、トチ狂わなきゃいいんだけど…」
【惑星マリス/植民記念公園】
「アニスせんせい、ここおしえて!」
「ちょっと! お姉さんは今あたいとしゃべってるんだから後にして!」
個人授業を邪魔されたアディが、横から割って入った女の子を手で遮ろうとする。
「駄目よアディ、そんなことしちゃ…、みんなにちゃんと教えてあげるから、順番守ってね」
優しくたしなめたアニスに、はーい、と数人の児童から一斉に返答が返ってきた。
以前JJと共に訪れた公園の広場で、アニスは野外教室を実施していた。
あの日、アニスがアディに教える姿を見ていた他の子供たちが寄ってきたことで、アニスはここで授業をするようになった。異世界に来ても、教師として振舞えることがアニスは嬉しかった。
「ねえJJ、そんなところにいないでこっちに来たら?」
アニスと子供たちから少し離れた木にもたれて、授業を見守っているJJにアニスは声をかける。彼の同伴なしで、ここに来ることは許可されてないのだ。
「いいよ。オレ馬鹿だからさ、数字見たら頭が痛くなっちゃうの」
「じゃあ尚更こっちに来て。そういう生徒を見るのが私の仕事なんだから」
アニスに生徒呼ばわりされてちょっと傷ついたJJだったが、それ以上に正直、理性が揺れ動いて仕方ない。それを彼女に気取られたくなくて距離を取っていたのだが、アニスに接近できる誘惑にあっさり負け、彼女の隣に腰を下ろした。
(可愛いなあ…)
楽しそうに子供たちと会話を交わすアニスの横顔に見入る。先刻のシチューも予想以上に美味かった。コーヒーの淹れ方もエイミの次元を超えたレベルで上手い。仲間にコーヒーが好きな奴がいるらしいが、そのせいだろうか。
アニスはデータ収集と分析に特性を置いたサイボーグだと云っていた。その処理能力の高さはデイブ愛用の端末より優れていたそうで、お陰で仕事がはかどった、とデイブが云っていた。
エイミも懐いているし、チャンプだって憎まれ口を叩いていながら、アニスのことを気にかけている。
別に、元の世界に帰らなくても―――
「……JJ、聞いてるの?」
「え"っ?」
己の思考に深入りしていたJJを、アニスの声が呼び戻した。
「もう、上の空なんだから。本当に勉強が嫌いなのね」
「あ、いや…その…」
「…これは問題児ねー、いいわ、明日はちゃんと授業を聞いてもらうわよ!」
教師としての使命感が燃えたのか、アニスはJJの鼻先に指を突き付け、そう宣言した。
溌剌とした笑顔。JJの胸はたまらなく幸せな気持ちで満たされていく。
(明日…)
そうか。彼女がその気なら。
明日も、明後日も。
ずっと、こうして。
夕陽はもう、彼方の地平に落ちようとしていた。
【LINK】
全員が寝静まっている真夜中のホワイトナッツ基地。
武器開発ルームには、デイブがアニスから預かっているソニックレシーバーと、メンテナンスのためにメンバーから回収した3丁のジリオンが置かれていた。
此れは何だ?
此れは何だ?
此れは、この世界にないものだ。
此処に在り続けるとどうなる?
此処に在り続けるとどうなる?
此の星の均衡が崩れる。彼の者の“決断”に狂いが生じる。
ではどうする?
ではどうする?
此れと、此れの主の不自然な消滅。そこにもやがて罅が生じ、広がる。
それは我々の望むところではない。
還そう。
還そう。
崩れる前に。
在るべき場所に。
在るべき場所に。
すべて、在るべき世界に。
静寂が帳を下ろす闇の中、ジリオンの核であるブラックボックスがそれぞれ、紅い光を灯す。
そして。
3点の紅に呼応するように、ソニックレシーバーの受信機能が“逆転”した―――
(続く)
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