WEB拍手を確認した結果「問題ない続けろ」という無言のメッセージを数人から受信した(ミョインミョイン)のと、7月の更新の段取りを考えた結果、SSは完結まで週イチペース、通常のネタ更新は隔週ペースにすればイケるかなという脳内会議の結論が出ましたのでまた掲載スタートです。
誘い受けに思われてそうでアレなんですが、7月中旬は殺す気かとキレたくなる過密スケジュールで更新? ナニソレ? になりそうだったので、SSの掲載ペースと、書き溜め予定のいつも通りの更新記事との兼ね合いで悩んだんですわー。まあこんな展開なので、ジリオンのファンの方に(キャラ解釈の相違等で)不快な思いさせてるのでは? とちっと及び腰なのは本当ですが。
最後までお付き合いいただければ作品の主旨をご理解いただけると思いますが、どうしても駄目だったら遠慮なくリタイアして下さい。チキンだねよしかずちゃんそうですよ!
と云う訳で後半戦です。ジリオンが一晩でやってくれました。ありがとうジリオン。今後ツッコミへの返答はザ・松田から「ジリオンだから」に変更させていただきます。
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「っ…!? これは…一体!」
アニス消滅から1週間が経とうとしている夜。ボーグマンチームは依然、アニスが飛ばされた時空を探し続けていた。リョウは自ら志願し、バルテクターを装着し転送装置を通じて未知の空間に向け、ソニックパワーを高出力で送り続けている。アニスがそれを受け取ることを願って。
それでも収穫は得られず、一同に憔悴の色が滲み始めていた。リョウを見かねたチャックが替わる、と云ってもリョウは頑として聞き入れず、作業に没頭している。日夜サイコエネルギーを消費し続けているリョウの限界は近い。そのことでメモリーにも焦りが生まれていた。
一方でコンピューターをフル稼働させ、時空の穴をひとつひとつ検証するという膨大な作業に追われていたメモリーの目に、“それ”は突然飛び込んできた。
ボーグマン基地の通信装置に、ハッキングの領域を超えた“メッセージ”が送られてきたのだ。
“アルベキバショニ”
“アルベキバショニ”
“スベテ、アルベキセカイニ”
そのメッセージが端末に表示された直後、転送装置にメモリーが今まで見たこともない反応が起きる。送り主はいともたやすく、通信と転送、両方のシステムに介入してきたのだ。
正体不明のエネルギーが転送装置に流れ込む。それは時空に穴を穿ち、ここに顕現したことを示していた。
「アニス…!」
送り主が彼女のソニックレシーバーを利用したことを示す情報が、モニターに記されていた―――
【惑星マリス/ホワイトナッツ基地】
「……はあ」
昼下がりのミーティングルームで。
もう何度目とも知れないため息をJJはついた。
今日はC級待機。アニスと共に時間を過ごす理由をアレコレ考えつつ、ふわふわした足取りで基地にやってきたのに、彼女はアップルとエイミがホープシティに連れ出していた。通信機で所在を訊ねると、女の子だけの買い物に首を突っ込むなと女性陣からしこたま怒られてしまい、何もすることがなくなり現在に至っている。
「恋って…辛いもんだなあ」
アニスとは毎日顔を合わせているのに、彼女がおやすみを云ってアップルと共に部屋へと消えた後、もう会いたくなっている。
そしてまたため息をつく。今までなら、本能に任せたアプローチとボディタッチで押し切っていたはずなのに、アニスにはどうしてもそれができなかった。
軽はずみなことをして嫌われてしまうのが怖い。
そんな臆病で、胸がひりつくような想いを抱いた女の子は初めてだった。彼女がサイボーグで、下手なセクハラはシャレにならない反撃を受けるという恐怖もなくはなかったが。
「……なあ、チャンプ」
彼の正面に座り、黙って憐れむような視線を向けているチャンプに話しかける。
「お前の恋の相談に応じる気はない。時間の無駄だからな」
「オレだってお前なんかとそんな話をする気はねーよ。……アニスちゃんさ、本当に元の世界に帰れるのか?」
「デイブ次第だな」
「……もしも…さ」
JJはチャンプからつと視線を外しつつ、言葉を続ける。
「このまま、帰れなかったら……オレたちで面倒見ることも考えた方がよくないか?」
「JJ」
チャンプの声は厳しさを含んでいた。
アップルが危惧していたのはこれか。
「そんなことを口に出すな。それは彼女にとって最悪な結末だ」
「でもさ、デイブが頑張ったってアニスちゃんのいた世界の科学力にはかなわないんだろ? あっちの世界から連絡来るのを待つしかないって云ってたし…」
チャンプのにべもない否定に、JJの心臓の底が冷える。
「デイブは他にも方法を探してる。アップルもエイミも彼女が元の世界に帰れると信じてるから、彼女との時間を大事にしているんだ。お前だけだ、そんなことを云うのは」
どうあってもチャンプから同意はもらえない。意地になってきているのは分かっていても、孤立を突き付けられたことでJJは意固地になった。
「あーそーかよそーかよ! 分かったぞチャンプ、お前この間アニスちゃんに投げ飛ばされたことをまだ根に持ってるんだろ!?」
「……あのなあ」
処置なしだな、とチャンプは思った。
体が鈍るから、というアニスの要望に応えて、アップルと共に彼女をトレーニングルームに案内し組手の相手をした時に、サイボーグパワーを封印した彼女に瞬く間に投げられた。悔しいがそれは事実だ。
だが正直、チャンプはもうアニスのことを疑ってない。ずっと“観察”していたが、彼女の振舞いに不審なところは感じられず、いい娘だと好感を抱くようになっていた。
だからこそ、強く願わずにいられない。必ず元の世界に帰れるようにと。
「お前がどう思おうと勝手だ。だけどな、例えもしもであっても、帰れないなんて絶対に云うな。…いいな?」
JJのことだ。その可能性をオブラートに包めずに、口に出してしまうだろう。
それを突き付けられたアニスが悲嘆に暮れてしまったら?
その姿に後悔し傷つくのは?
チャンプは目の前にいる仲間の男が自分よりもずっと優しく、傷つきやすいハートの持ち主であることを知っていた。
だが、そんなチャンプの気遣いに気が付く余裕が、アニスへの想いで目を曇らせているJJにあるはずもなかった。
「…オレはアニスちゃんが好きなんだよ! ここに残る選択肢があったっていいだろ!」
玩具を買って欲しくて駄々をこねる子供のような、泣き出しそうな顔を残してJJはミーティングルームから飛び出していった。
「あ! …おい!」
JJを止めようとチャンプが立ち上がった瞬間、ミーティングルームの通信装置から声がした。
《誰かいるか!? 早くこっちに来てくれ! アニス…そうだ、アニスに連絡しないと…!》
通信装置越しにデイブの声が響いた。
***
基地から外に通じる廊下を駆けるJJの視界に、角から曲がってきた2つの人影が飛び込んできた。
「きゃ!? …やだ、JJじゃない。気を付けてよ」
勢いよく走ってきたJJとぶつかりそうになり、驚いて立ち止まったのはブティックの紙袋を抱えたエイミ。彼女の横にはアニスが立っていた。
「ごめ…、あ、…アニスちゃん」
「もう、廊下を走っちゃ、…JJ?」
小言を続けようとしたアニスを、JJは正面から見据える。胸から零れ出す想いと、チャンプの言葉が頭の中でぐちゃぐちゃになって回っている。感情の高ぶりが止まらない。
「行こう」
「え?」
戸惑うアニスの手を強引に掴み、JJは再び駆け出す。
「ちょっとJJ! 駄目よ! アニスはこれからデイブのところに…」
エイミの叫びを背中で拒絶し、JJはアニスを連れて基地の外へと消えていった。
***
「…マジ…かよ」
「ボクだって信じられないよ。こんなことが、突然起きるなんて…」
武器開発ルームの端末モニターにずらずらと表示されたデータと、送信に設定が切り替わっていたソニックレシーバーを前に、チャンプとデイブが茫然としていた。
端末が示した未知のデータ。それは受信を待っていたはずの“こちら側”が膨大なエネルギーを、ソニックレシーバーを通じて送信したことを記していた。
受信先は当然、アニスのいた「メガロシティ」が存在する世界だ。
それはデイブたちの技術、そしてこの通信機のスペックを考えるとあり得ない現象だった。
一体、このエネルギーの正体は?
「……ジリオン……」
幾度もホワイトナッツに人知を超えた奇跡を見せつけてきた、無限の可能性を秘めた銃の名前を、デイブは口にしていた。
「大変よ!」
買い物袋を落としそうになりながら、エイミが慌てた様子で飛び込んできた。
「エイミ!? アニスは?」
「JJがどこかに連れてっちゃったの! 通信機も置いてってるしどこに行ったのか…」
「っ…! あのアホ! 本当にトチ狂ってやがったのか!」
チャンプがそう吐き捨てて駆け出そうとしたその時、彼の通信機からアップルの切迫した声が聞こえてきた。
【メガロシティ/ボーグマン基地】
「…マジ…かよ」
「私も驚いたわ。まったく、今回は初めてのことばかりで参るわね…」
巨大モニターに表示され続ける大量のデータを眺めつつ、チャックとメモリーが驚嘆の言葉を漏らした。
深夜にメッセージと共に送られてきた“プレゼント”は、転送装置から放出されたリョウのソニックパワーをアクセスポイントにしていた。
だが、それは無数に散らばる時空の穴をすり抜けて相手と繋がりを持つどころか、時空の穴を問答無用とばかりに蹴散らし、エネルギーが継続する限りは通行可能な“トンネル”を開通させていた。
(すべて、在るべき世界に…)
心の中で、メモリーはメッセージの一部を反芻する。自分の信条には反するが、メモリーはそれを“神の言葉”と捉えていた。
「正直、オレの理解を超えているんだが…あちらさんがリョウの努力に気付いて、歓迎の準備をしてくれた、ということか?」
「そうね…だけど、これがいつまで保つのかまだ分からないわ。少しでも長く安定させられるように、こちら側からも“補強”する必要があるわね。チャック、手伝ってちょうだい」
「了解。…って、リョウはどうした?」
メモリーが無言で視線で示した先には、作業用のデスクに顔をうつ伏せて爆睡しているリョウの姿があった。彼の頭のすぐ傍には、茶色い残滓を残したコーヒーカップが転がっている。
まるで探偵小説に出て来る“毒殺された被害者”のようだった。
「おいおい、この肝心な時に……」
「私が眠らせたのよ」
再び端末に向き合ったメモリーが、こともなげに云い放つ。
「コーヒーにちょっと細工を…ね。いざという時のためにきちんと寝て食べておきなさいってあれほど云ったのに、全然聞かないんだから…」
後で栄養剤もたっぷり打っておかないと、と淡々とキーを叩き始めたメモリーの姿に、チャックはこの女上司の恐ろしさを改めて認識し、寝息が聞こえなければ屍にしか見えない親友に同情の視線を送った。
【惑星マリス/セントラルパーク】
様々な緑を湛えた森林公園「セントラルパーク」で、JJはやっと足を止めた。
肩で息をしたまま、後ろのアニスを振り向けない。彼女の手を握ったまま離せずにいる。
(……一体オレは何をやってるんだ)
自分はいまみっともない真似をしている。それだけは分かっていた。
ごめん、と云いかけ、離そうとした手が握り返されたのを感じて、JJは思わずアニスを振り返った。
彼女は軽蔑するでもなく怒るでもなく、優しい目でJJを見つめていた。
「…JJ」
泣いている子供を宥めるように、アニスはJJの手を撫ぜる。
「私、やっぱりあなたたちを悩ませてるの?」
「えっ?」
「ごめんなさい。自分の立場は分かってるつもりだったんだけど…」
アニスは寂しげに目を伏せた。
「ち、ちがうって! 誰も悩んだりしてないよ!! チャンプだって本当は君を気に入ってるんだ! …だから、謝ったりしないでくれ」
「…そう。良かった」
アニスが安心したように微笑む。その穏やかな態度にJJは次第に落ち着きを取り戻した。
「JJ、汗びっしょりね。あのベンチで休まない?」
鳥のさえずりと草木の香りが、訪れる人々に癒しを与える空間。
そこは少し前に、チャンプの報復行為によって悪夢を見せられた場所だった。
そこで今度は、恋焦がれている女の子と2人きりで座っているのだから人生は分からない。
―――もしかしたら自分は、いますごく哲学的なことを考えたのだろうか。
などと取り留めのないことを思索しつつ、JJはチラリと横目で隣のアニスを見やった。
彼女は上着のポケットからハンカチを取り出し、JJの額にそれを押し当てた。
「…っ!?」
「すごい汗…もう、あんなに走るからよ」
ハンカチ越しに感じるアニスの温もりに胸が躍ってしまう。
「あ、うん…ごめん」
「…ほーんと、私って世話の焼ける男の人とばかり縁が出来ちゃうのね。……あいつもそうだし」
「え?」
最後の方が聞き取りにくくて、JJは思わず聞き返した。
「ううん、こっちのこと。…それより、ねえJJ」
「ん?」
「私に話したいことがあったから、ここに連れてきたんでしょう? アップルたちにも云えない悩みでもあるの? ちゃんと聞くから、話して」
アニスの温かな視線が真っ直ぐ、JJの目に向けられる。
ああ。
本当に彼女は「先生」なのだと、JJは思った。
優しくてしっかり者で、可愛くて。そして時々、寂しそうで。
好きだ。大好きだ。
きっともう、こんな最高の女の子とは出会えない。
緩やかな風がアニスの髪をなびかせる。草の香りに交じって届くシャンプーの芳香が、僅かに残っていたJJの逡巡を吹き飛ばした。
周囲には誰もいない。
本当に2人…だけ。
そして、彼女のこの問い。
(これって…最高のシチュエーションじゃないのか?)
そしてJJは決断した。
「……アニスちゃん」
JJはアニスの目を真剣な目で見返した。
どくんどくん。胸の高鳴りは増す一方で、聞かれているのかも知れない。
彼女は人間離れした聴覚を持っているのだから。
だが、もう決めた。
チャンプの云ったことなんか知るもんか。
きっと、あの出会いは運命だったんだ。
彼女は、オレと出会うためにこの世界に来たんだ。
この先どんな障害が待っていたとしても。
君はオレが守る。
だから、ずっと。
ずっと、オレと一緒に。
JJはアニスの両手を自分の両手で包み込むように握る。初めて見る彼の思いつめた表情に、アニスは少し戸惑った。
「……JJ?」
JJが口を開いたその瞬間。
JJの視界からアニスが消えた。
(続く)
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