ドリフ最新話に心を乱されつつ6回目をお届け。やっとボーグマンチームが動きます。書いた本人は既に+αに手を付け始めているので、まだこんなトコかとじれったい。しかしマンガならともかく、SSはハイペース更新に向いてない気がするので現状ペースで。
今までのあらすじ三行。
・アニスうっかりホワイトナッツの居候。
・アニスというマドンナに出会ったJJ寅さん属性発動中。
・リョウ寝取られ属性発動中。
どっちの属性が勝つのか、ぜひ見届けて差し上げて下さいヽ(´ー`)ノ
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【惑星マリス/ホープシティ】
ショッピングセンターに硝煙と焦げ臭い匂いが充満している。あちこちの店舗の壁が崩れ落ち、戦場と化していた。
先刻まで絶叫と泣き声が飛び交っていたが、やっと一般客が避難を終えたらしく、周囲から人影はなくなっていた。
「しつっこいわね、もう!」
瓦礫の後ろに咄嗟に隠れたアップルの長い髪の先端をビームがかすめた。
嫌な予感は、どうしてこうも当たってしまうのだろう。
『美容院に寄りたいから、先に戻ってて』
そう云ってアニスとエイミを先に帰らせ美容院へと向かう途中、ふと直観が働いた。ノーザとの戦いによって研ぎ澄まされた戦士としての勘が、アップルに“それ”を知らせたのだ。
案の定。
携帯していたジリオンを密かに手にし、気配を探った矢先。
ショッピングセンターの中庭、芝生と草花が植えられた「憩いの広場」に“それ”は轟音と共に降り立った。
戦車に手足を付けたような、重量感溢れる武骨な装甲。右肩には巨大なランチャーが体の一部のように据えられた“それ”―――3体のサイボーグ・ノーザで構成された強敵「ノーザ・ウォリアーズ」の一員“ナバロ”が、周囲の人々に向け砲撃を開始したのだった。
「アップル! 大丈夫か!?」
アップルから少し離れた位置、崩れた壁の向こうからチャンプがジリオンを構えつつ声をかける。アップルからの緊急コールを受け、ショッピングセンターに駆け付けていた。
「ええ、…でも、髪が痛んじゃったみたい。せっかく予約入れたのに、別の美容院を探さなきゃ」
「それなら心配無用。美容の悩みならこのチャンプさんにお任せだ。じっくり相談に乗るぜ?」
「気持ちだけもらっておくわ…それより、おかしいと思わない?」
ジリオンを構え直し、瓦礫の隙間からナバロを注視する。ナバロの強襲は最初だけで、アップルとチャンプを認識した後は、のらりくらりと時々彼らに攻撃を向けるだけで、いつものような殺意が感じられなかった。残りの2体も出現する様子がない。
まるで、時間を稼いでいるような―――
「!! …まさか…!」
アップルの疑問にチャンプは一瞬黙考し、は、と顔を上げた。
「アップル、デイブに連絡して一刻も早くJJを探させろ! こいつらの目的はアニスだ!」
【メガロシティ/ボーグマン基地】
メモリーが急造した巨大な転送装置の中で、バルテクターを装着したリョウとチャックが、スーパーサンダーと共に発進の合図を待っていた。
「時空のトンネルは思ったより安定しているわ。計算上ではつながっている世界との往復に問題はない。だけど不測の事態もあり得る。サンダー、その時はあなたが対応するのよ。できるわね?」
『大丈夫です。メモリー』
高度な人工知能と感情システムを搭載するバイクが、明瞭なヴォイスで返答する。
「メモリー、もう準備はできてるぜ、まだかよ?」
スーパーサンダーの操縦桿を握る手に力を籠め、リョウが焦れたように尋ねる。睡眠と栄養を強制的に採らされた彼の肉体とサイコエネルギーは、アニスがいなくなる前のそれに戻っていた。
「慌てんなって。距離のある遠足になるんだ。酔い止めの薬は飲んだか?」
「茶化すなよ。そんなもの飲まなくても、じゅーぶん寝たから心配ねえよ」
リョウのそんな皮肉をメモリーはあっさりとスルーした。
「アニスに伝えて。紅茶を用意して待ってるって」
「…了解」
チャックがソニックバズーカを抱え直す。
「よし、じゃあお姫様を迎えに行くとするか」
『やっとアニスに会えますね、リョウ』
「そーだなー、せっかくの再会だ、熱い抱擁を期待してるからな、リョウ?」
「お前ら何云ってんだ?」
放っておいたら延々と続きそうな、緊張感のない会話をメモリーの声が打ち切った。
「続きはアニスが帰ってきてからにしなさい。さあ、いくわよ!」
【惑星マリス/セントラルパーク】
本当に、それは刹那の出来事だった。
「…アニスちゃん?」
今。確かに目の前にいて、手を握っていたはずのアニスがいない。
困惑したJJがふと目線を上げたその時、驚愕の光景が視界に飛び込んできた。
2人が座っていたベンチの目前にあった池。
その対岸にアニスはいた。
だが、白く大きな手が彼女の首を鷲掴みにしている。
あの手。
腕をワイヤーのように伸縮させられるあの手の主が、アニスを連れ去ったのだ。
「JJ…!」
呻きながらJJの名を呼んだアニスの背後には。
アニスがこの星に降り立った時に立ち塞がった“角を持つノーザ”、そしてノーザ・ウォリアーズ最強の戦士―――ガードックの姿があった。
***
ガードック。
彼はこの刻を待っていた。
マリスにもノーザにも存在しない、オーバー・テクノロジーを秘めた女性サイボーグにガードックは魅了された。
この女に使われている“技術”を自分たちに導入すれば、マリス軍も目障りなホワイトナッツも殲滅できる。
すぐにでも体勢を立て直し、あの女を捕獲したかった。
だが、ガードックが彼女から受けたダメージは思ったより深かった。
治療に時間を費やしたその間。
最高司令官のアドミスを説得し、仲間の2人にホワイトナッツの動向の監視と、女性サイボーグ「アニス・ファーム」の調査に注力させた。
そして回復したガードックは、アニスの外出を確認したこの日、彼女を捕らえようと考えていた。
だが、アドミスは何故か“承認”を渋り、作戦決行の許可が下りたのはつい先程。ショッピングセンターでの「捕獲」は叶わなかった。そのアニスを、ホワイトナッツの“不確定要素”JJがご丁寧にももう一度、外に連れ出してくれた。
そう。
彼らの思惑の都合のいい場所に、JJは彼らの「獲物」であるアニスを連れ出してしまっていたのだ―――
【惑星マリス/ラミアベース近郊】
《 国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。》
C級の教員免許を取るために、俄か勉強をした時に目にした文学作品のフレーズをリョウは思い出していた。
もっとも、拍子抜けするほど一瞬で抜けたトンネルの向こうに広がっていたのは雪国ではなく、自分たちが住んでいる世界と特に変わった点が見当たらない、乾いた大地だったのだが。
「………なあ、リョウ」
チャックも同じ思いだったらしい。
「ここ、異世界…だよな?」
『はい。間違いありません』
返答したのはサンダーだった。
『大気に地球にない成分が含まれています。地面からも地球に存在しない微生物の存在が確認できます』
「この短時間でそこまで分析したか、たいしたもんだ」
『ありがとうございます』
「んな呑気なこと云ってる場合かよ。さっさとアニスを探せよサンダー!」
「落ち着けよ。ここまで来たらソニックレシーバーが反応してくれるだろ。サンダー、ちょっとコールしてみてくれ」
『了解しました』
サンダーがアニスのソニックレシーバーにコールを送る。僅かな間の後に受信を示すランプが光った。
「アニス! 無事か!?」
《……オパ?》
「……おぱ?」
アニスの声を確信して緊張交じりに耳を傾けていたリョウとチャックだったが、玩具のロボットのようなチープな音声に、2人の目が点になった。
《こらオパオパ! 勝手に触っちゃ駄目だろう……って、え、ええええ!?》
次にスピーカーから聴こえてきたのは、若い男性の声だった。
《アニスの仲間なのか!? ここに来れたんだな!?》
「っ…! あんた誰だよ! アニスのレシーバーだよな!? アニスに何したんだ!?」
アニスの声どころか若い男の声が返ってきたことで狼狽したリョウの口元を、チャックが片手で塞いだ。
「サンダー、通信をこっちに切り替えてくれ。オレが話す」
むぐぐ、と唸るリョウの口をを器用に押さえながら、チャックはもう片方の手で手首に内蔵された通信機を開いた。
「その通り、オレたちはアニスの仲間だ。彼女を迎えに来たんだが、そこにいるのか?」
《………………》
「聞こえてるのか? おい?」
《………あ、ああ、失礼した。アニスから聞いていたけど……いや、しかしここまで……》
「?」
通信機の向こうの相手の不可解な反応の理由を、チャックは後に知ることになる。
《そ、そうだ! 君たち、移動手段はあるか!? アニスが危ないんだ!》
【惑星マリス/セントラルパーク】
「ノーザ・ウォリアーズ…!」
池の向こうでアニスを羽交い絞めにしている異形に、JJは怒りの視線を向けた。
「てめえ、アニスちゃんを放せ!」
そう云って、腰に差したジリオンに手を伸ばす。アニスと行動を共にするときは必ず携帯することを、Mr.ゴードから命じられていたのだ。
しかし。
「あ! く、ぅ…っ!」
JJの行動をけん制するように、ガードックはアニスの首を掴む指に、僅かに力を込めた。
『我々の目的は、この女だ。だが、命はどうでもいい』
「……っ! この、野郎…!!」
ぎり、と歯を噛みしめるJJを、嘲笑うかのようにガードックは続ける。
『だが、お前がこの女に見合うだけの対価を差し出すというのなら、交換してやらんでもないぞ?』
「…どういう意味だ?」
ノーザ特有の、表情が分からない仮面のようなフェイス。ガードックのその顔がにやり、と嗤ったような気がした。
『お前のジリオンを寄こせ』
「なっ…!」
「駄目よ、JJ! ……ああっ!!」
思わず叫んだアニスの首に、ガードックの鋭い指が更に食い込んだ。
『我々に必要なのはこの女に使われている技術。命は不要だ。だが、お前にとってはそうではあるまい?』
「……………」
数瞬の沈黙。ガードックを睨み付けていたJJの表情が、ふ、と苦笑いに変わった。
「…仕方ねえな。アニスちゃんのためだ」
「J、J…!」
アニスが必死でもがいているのが分かる。だが、ガードックの手はびくともしていない。
『ジリオンを足元に置いて、こっちに来い。おかしな考えは起こすなよ』
「あいにく、難しいことは考えられないアタマでね」
ガードックの要求通り、JJは腰のホルダーからジリオンを外し、両手を頭の後ろに回して池のラインをなぞるように、ゆっくりと、ガードックとアニスがいる対岸に向けて歩き出した。
JJはある決意を固めていた。
これは、罰だ。
チャンプの苦言を聞かず、自分の想いをアニスに押し付けようとした報いだ。
彼女をここに連れてきて、こんな危険な目に遭わせたのは、紛れもなく、自分だ。
“リックス”よりも残酷で狡猾な、ノーザ・ウォリアーズが公明正大な取引なんかする訳がない。
おそらく、丸腰の自分を殺し、アニスもジリオンも回収する「一石三鳥」の腹積もりだろう。
だが、そうは問屋が卸さない。
JJは歩みを進めながら、ポケットに入っている小型銃の重みを確認する。
ジリオンに比べれば玩具も同然。だが、至近距離で上手く使えば、アニスを逃がす隙ぐらいは作れるはず。
いや、作ってみせる。
それと引き換えに、あいつの右手に仕込まれた鋭い剣に、自分は貫かれるだろう。
(…死ぬかな、やっぱり)
何度もそう思ってはどっこい生き延びてきたJJだったが、今回ばかりは自分が生きているビジョンが浮かばなかった。
視線をアニスに向ける。首を絞められ苦悶の表情を浮かべるその唇が、だめ、と動いているのが見て取れた。
だけど、もう、誓っていたから。
守ると。
***
「サンダー! セントラルパークとやらはまだかかるか!?」
『あと5分です』
赤い土が広がる荒野に土煙を上げながら、リョウとチャックを乗せたスーパーサンダーが奔る。彼らの目前に、荒野に突然生えたような近代的なビル群が迫りつつあった。
通信に応じた若い男―――“デイブ”から送られた座標に従い、2人はアニスがいるというセントラルパークへと急行している。その際に、デイブから簡単に今までの経緯と、アニスが置かれた状況を説明された。
《アニスを襲っているヤツがいたら敵だ! 遠慮なくやってくれ!!》
ついでにウチの粗忽者も助けてやってくれ、と云い残し、他の仲間と連絡を取る為にデイブは通信を切ってしまった。
「ずいぶんと派手な歓迎パーティーが待ってたもんだな」
スーパーサンダーの後部に据えられた、大口径キャノンを構えた姿勢のチャックが肩をすくめる。この世界はどうやら、メガロシティとそう変わらないらしい。
だがリョウの口から出たのは、チャックの軽口に対する返答ではなかった。
「チャック、運転を替わってくれ」
「うん?」
リョウはゆっくり座席から腰を上げ、スーパーサンダーの片翼から突き出たカタパルトのフックに足を引っかけ、移動した。
「このまま真っ直ぐ行けばセントラルパークだよな? サンダー、オレを撃ち出せ。…先に行く」
「…分かった。オレが着くまで感動の再会はお預けにしろよ?」
「何だよそれ」
呆れたような表情を浮かべた後、リョウはカタパルトの上でスタートの合図を待つ陸上選手のように、片膝をついて身を屈めた。
『行きますよ、リョウ!』
一直線に舞い上がり続ける土煙の中から。
弾丸のごとき青い塊が射出された。
(続く)
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