2018年07月07日

【ジリオン×ボーグマン】異星に舞い降りたエトランゼ 6【妄想以上SS未満】

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7回目です。あともう少しで終わりです。一応(ボソリ)。
今までええとこなしだったもうひとりの主人公がやっと活躍します。己の考えた話の都合とは云え、ずっと彼を動かせなかったのは結構ストレスでした。ところでわたしダストジードもろくすっぽ描いてないのに、何でさして好きでもないガードックをこんなに気合い入れて書いているのか。彼に関してはこのSS仕様にキャラ解釈して書いてます。正直ノーザ・ウォリアーズってガラの悪さばかり印象に残り、掘り下げもあまり行われなかった残念な連中だったと思います。リックスが再登場以降で株を上げアドミス様がビッグマザーの気品を保っていただけに尚更。

明日はらくがきを更新予定です。そしてしばらく多忙。はたらきたくないでござる!(駄目人間)





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「………っ!!」
 それに気が付いたアニスは息を飲んだ。
 囚われている自分に徐々に近づきつつあるJJが、先程まで立っていた場所の後ろの茂みから垣間見えた、ふたつの小さな光。索敵能力に優れたアニスでなければ気付けないほど、“それ”は見事に気配を消している。
 茂みからひっそりと、そのふたつの小さな光、無機質な目の持ち主が進み出た。
 いま自分を捕えている角を持つノーザよりも小柄な異形。
 女性型なのだろうか、その体は丸みを帯びた曲線で構成されており、背中には蜻蛉の羽のような、巨大な突起が装備されていた。視線はJJが置いたジリオンに注がれている。
 間違いない。あれはこのノーザの仲間で、ジリオンを回収する気だ。
 最初から取引をする気はない。それはアニスも確信していた。だが、仲間が潜んでいたことまでは気付けなかった。

 まさか―――

 アニスの背筋が凍りついた。
 あの女性型ノーザは、ジリオンでJJの背中を撃つ気なのか。
(JJ…!)
 アニスは必死で声を上げようとするが、彼女が気付いたことを察知した、角を持つノーザの指がそれを阻む。
「んぅ……っ…!」
『気が付いたか…さすが機械人間だな』
 ほくそ笑むように、角を持つノーザがアニスの耳元で囁く。
『黙って見ていろ。すぐにあの男の後を追わせてやる』
 勝利を確信した声が、アニスの心を砕きにかかる。
『ノーザの礎となれ、人間共』
(そんな……こと……!)
 アニスは歯噛みした。JJの意識は角を持つノーザに向かっていて、自分のアイコンタクトに気が付いていない。
 ホワイトナッツのメンバーはまだ知らないのだろうか。
 このままでは、JJが。
 女性型ノーザは気配を消したまま、ゆっくりとジリオンが置かれた方向へと歩み寄る。
 この角を持つノーザの力は圧倒的だ。どんなにもがいてもびくともしない。声を上げることもできない。
 どうすれば。
 こんな風に、アニスが窮地に陥った時に、必ず助けに現れた仲間たちは世界の向こう側。いつ会えるのかすら分からない。


 それでも。
 もはや、願うしかなかった。
 

 彼を、JJをたすけて。



(誰か、………リョウ…!)



 女性型ノーザはジリオンに手を伸ばす。
 その刹那。

 彼女の脇腹に、衝撃が走った。



「―――え!?」
『―――!?』
 混乱した。JJも、ガードックも。
 彼らの足元が軽く揺れた。
 JJは背後、ばりばり、と複数の木が薙ぎ倒れる轟音を腹部で受け止めた。
 ガードックはジリオンを回収しようとした女性型ノーザ・ソラールの“消失”を目の当りにした。


「おい!」
 不意に声をかけられ振り向いたJJに、何かが放り投げられる。咄嗟に受け取ったそれは置いていったはずのジリオンだった。
 だが、目の前に声の主はいない。
 声の主は、既に。


 逆光を背に。
 高く―――高く、跳躍していた。


 ガードックは、腕の中の“サイボーグの女”の変化を感じ取った。
 今の今まで、女の心音も呼吸も絶望を奏でており、加虐な傾向にあるガードックを愉悦に浸らせていた。 
 それが一転し、女は不快感を覚えるほど“歓喜”に満ちている。
 こんなことを考える余裕など。
 だが、その位。


 それはガードックの“認知”を軽々と超えた速度で、目の前に現れたのだ。



「その手を放せ」





 ヒトの形をした青い塊が急降下してくる。





「エセ妖魔野郎」





 青い人型はガードックの脳天目掛け、頭の上で組んだ拳をハンマーを撃ち下ろすように叩きつける。ガードックは咄嗟に体を弓なりに逸らし寸でのところで避けたが、引き換えにアニスを縛めていた左手の力が緩む。強力な握力が左手に差し込まれ、めり、と白い指をもぎ取らんばかりに掴み、アニスを引き剥がす。
 そして、体勢が崩れたガードックの鳩尾を勢いよく蹴り飛ばした。
『ガ、ァ……ッ!!!』
 ガードックの巨躯が投げられた小石のごとく横方向へと吹っ飛ぶ。周囲の木々が折られ倒れる音が再び響いた。




 ガードックが“青い人型”としか認識できなかった“彼”に、アニスは抱えられていた。
 初めて会った時からそうだった。
 アニスが心の底から助けを求めると、いつも真っ先に駆け付けてきたのは彼だった。



 今回も彼は来た。
 時空の壁を超えて。


 涙が出そうになるのを、アニスはかろうじて堪えた。


「リョウ……!」
「迎えに来たぞ、アニス」


 マリンブルーのプロテクトスーツ「バルテクター」でその身を覆うサイボーグ。
 メモリー・ジーンが作り上げたボーグマンチーム最強の戦士。



 力強い微笑みをアニスに向けた、
 響リョウが悠然と、そこに立っていた――――――




 幾度かの瞬きの間に起きた出来事を、JJは頭の中で必死に整理した。
 ガードックが立っていたあの場所で、いまアニスを抱えている青い装甲服の男。顔の上半分は赤いバイザーで覆われていている。トライチャージャーの軽量化を突き詰めたら、あんなデザインになるだろうか。デイブどころか、技術アカデミーにも存在しないテクノロジーが使われているのは確かだ。
 あの男が、こっそりジリオンを拾おうとしていた女ノーザを来るなりぶっ飛ばし、ジリオンを自分に投げて寄越し、ノーザ・ウォリアーズでも一番手ごわい奴からアニスを取り返した。
(アニスちゃんの、仲間……)
 彼がそこにいる、その意味に気付く直前。
 吹っ飛ばされていたガードックが猛然と駆け戻りつつ、左手を射出するべくアニスと装甲服の男に向ける姿が視界に入った。
 JJは即座にジリオンの銃口をガードックに向ける。数発の赤い閃光がガードックの顔を掠め、彼の前進を躊躇わせた。
 装甲服の男が自分を振り返ったと同時に、アニスを抱きかかえてこちらに向かって跳躍、JJの目の前でかつん、と足音を立て降り立った。
「サンキュ」
「どーいたしまして。ジリオン、ありがとな」
「JJ、大丈夫!?」
 装甲服の男に抱えられていたアニスが、切実にJJに問いかける。
「へーきへーき! アニスちゃんこそ……ってうわぁ!!」
 呑気に答えた瞬間、再び飛んできたガードックの左手をJJは咄嗟に身を屈めて避けた。彼はまだアニスもジリオンも諦めてないらしい。
「ここにいたら危ないな。一旦離れるぞ!」
 装甲服の男が、そう云ってJJを手招きする。
「駄目だ。オレたちがここから逃げたら、あいつは手当たり次第にこの辺を攻撃する。パークにいる人たちがとばっちりを食っちまう」
「ここでやっつけるしかないってことね。…リョウ!」
「リョウ」と呼ばれた装甲服の男は、少し考え込む仕草をした後、そうだ、と腰のホルダーから黒く小さな球体を取り出した。
『キサマら、絶対に逃がさん!』
 怒りに染まった声と共に、池の対岸からガードックがこちらに向かって跳躍し、右手に装着された大きな剣をJJたちに向け振り被る。リョウはその眉間を目掛けて球体を投げた。
 狙い通り、ガードックの目と目の間に命中した球体は黒い靄に変化、どす黒い気体がガードックの顔を包み込んだ。
『……っ!? な、なんだ? なんだこレハ!?』
 膝を折り、黒く染まった顔を抱えて悶えるガードック。彼の中に組み込まれた機械のパーツが軋み、次々とバグを生み出していた。
「おー! あいつ動かないぜ、すげーじゃん」
「リョウ、あれは…?」
「メモリーがくれた“お守り”だよ。君をここに飛ばした妖魔の物質、あれの解析中にできた副産物らしい」
 肩を小さくすくめてリョウは答える。アニス探索のための膨大なデータ分析に追い回される時間の中で、あんなものを作ってしまえる女上司にリョウは改めて畏怖の念を感じた。
 その時、リョウの通信機からコール音が鳴った。
《リョウ! アニスはどうした!?》
「チャック!?」
 リョウが差し出した通信機にアニスが応える。
《アニスか!? 無事だったんだな? いやー良かったなリョウ、やっと安眠で…》
「余計なこと云うな!」
 通信機に叫んだリョウがふとJJに視線をやると、JJは何か云いたそうに口をぱくぱくさせていた。
「? 何だよ?」
「……え、え? その、声……」
「声がどうかしたのか?」
 さらに突っ込んで訊こうとした、その時。
 最初になぎ倒された木々の向こうから、ひとつの影が飛び出した。
 影は地に臥し悶絶するガードックの傍に降り立つ。その正体は、リョウが問答無用で殴り飛ばした女ノーザだった。
「!?」
 JJは咄嗟にジリオンを構える。だが彼女はJJの威嚇に構わず、ガードックを抱えて退却しようとしていた。
『……待、て…ソラール……』
 ガードックはソラールの“判断”を否定する。
『ガードック、だが…』
 ソラールは前方のリョウを睨み付ける。突然現れた“あれ”の強さが測れない。作戦を継続するには状況が変わりすぎている。
『お前ハ…気が付いテない…ノか…? 何かガ、近づイ、て……』
『……っ!』
 ソラールはは、とリョウたちの向こうを見つめる。機械で強化されたその目が、こちらに向かって疾走してくる大型のバイクと、その搭乗者を視認した。
『…気付イたか? お前ハ……そっちをヤレ……オレは、何としてモこいつラを…!』
 ソラールの手を払いのけてガードックが立ち上がる。ソラールにとって、リョウは“脅威”だったが、ガードックにとってはアニス以上に魅力的な“パーツ”だった。
 それがあともう一体、こちらにやってくるのだ。この好機を逃す訳にいかない。

 ノーザの存続、そして未来のために―――


『ぬああぁアアアアァァっーーーーーーっっ!!!!!!』


 力を振り絞り、ガードックが立ち上がる。顔を覆っていた黒い靄が少しずつ、すこしずつ薄くなっていった―――




「おいおい! あいつ立ち直ってるじゃんかよ! 効き目なくなんの早すぎじゃねーの!?」
「オレが知るかよ。妖魔じゃねえし。試作品だし」
 ガードックの予想外の立ち直りにたじろぐJJとリョウ。
「…ねえJJ、リョウ」
 2人が庇い、後ろに控えていたアニスが話しかける。
「何か分かったのか?」
「ええ」
 先刻から分析能力を働かせていたアニスが、ガードックに宿る“違和感”を見抜いた。

(続く)
タグ:小話
posted by はらよしかず at 19:24| ジリオン×ボーグマンSS