猛暑自重しろと云いたくなる毎日ですが皆様如何お過ごしでしょうか。わたしの忙しさはいつまで続くのでしょうか(知らんがな)。睡魔はトモダチ状態なのでクリスタを立ち上げるどころではなかったり。らくがきしたい(;´Д`)
さて連載8回目です。次で一応最終回です。一応(含み)。そう云えばこの間何気にジリオン18話見直した際に、セントラルパークの設定で致命的な思い違いをしていたことに気が付いて白目剥きました。見直してツッコミ入れてやろうなどどゆめゆめ思わぬよう。仕方ないザ・松田をもう一度召喚しよう。
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「うおぁ!」
アニスの下に駆け付けるべく、リョウの代わりにスーパーサンダーに搭乗していたチャックは、突如前方に現れた“異形”に襲われ、メインコクピットから転げ落ちた。
チャックは急停止するサンダーのカタパルトにしがみつき、体勢を立て直そうとする。だが、空中を高速移動する羽虫に似たシルエットは、両手に装着されたレイピアのような武器でカタパルトを突き、チャックをけん制した。
アニスとの通信が途中で切れたのは、こいつが原因か。
「…野郎!」
『あれは女性型です、チャック』
サンダーが自らの意思で大口径キャノンを操り、異形を迎撃し遠ざける。
「…あ、そ」
切迫感皆無のサンダーの口調に、だがチャックは救われた。
カタパルトに腰を下ろす。バイザー越しに目を凝らすと、確かに異形は胸や腰が丸みを帯びており、女性型の妖魔に見えなくもなかった。
「こんな異世界でも逆ナンされるとは、モテる男は辛いねえ」
チャックはそうひとりごち、背中のバズーカを外し異形に照準を合わせる。
「でも、悪いな。もう心に決めた相手がいるんだ。丁寧にお断りさせてもらう」
【惑星マリス/セントラルパーク】
ガードックがその黒い靄の効力を振り払えたのは奇跡に近い。
彼の顔を覆っていた靄はほとんど消え、後の回復は彼がその内に実装している修復能力にかかっていた。
捕える。あのサイボーグ共。そしてジリオンも。
ガードックの執念が、彼の修復能力をさらに高めていた―――
「あーーーーーー!!!!!」
立ち上がったまま、まだ動く様子を見せないガードックを尻目に、JJが絶叫した。
「…っ! いきなり何だよ!?」
JJはまるで信じられないものを見たとばかりに、視線をリョウが構えたソニックガンに注いでいた。
「オレのジリオンじゃねえかそれ! なんでアンタが持ってるんだよ!?」
「何云ってんだ。これはウチのおっかねえ校長先生が……って」
リョウは改めて、しげしげとJJの銃を眺める。
確かに、拾った時に引っかかるものは感じていたが。
「へぇ……似てるなあ」
ソニックガンと交互に見比べつつ、リョウはあっさりと肯定した。
「だろ? だろ!? …まあ、オレのジリオンの方が絶対に強いけどな!」
JJはそう云って、ふん! とドヤ顔をリョウに向ける。
「そいつはどうかな。メモリーは天才だぜ?」
「もう、ふたりともそんなこと云ってる場合?」
子供っぽい意地の張り合いになりかねないJJとリョウの言葉の応酬を、後ろで見ていたアニスが咎める。
「「はいはい」」
返答がみごとに一致し、JJとリョウは目を合わせてふ、と笑った。
こちらを振り向いたガードックに同時に銃口を向ける。
「…今更だけど、アンタ、銃の腕前は?」
「それ、サイボーグのオレに訊いてる?」
「…なるほど」
回復を終えたガードックが鋭い眼光を放ち、ぶん、と右手の剣を振るいJJとリョウに対峙した。
『キサマら、まとめて斬り伏せてやる!』
剣を構えたガードックが駆け出し、一気に間合いを詰めて来る。
最初に声を上げたのはJJだ。
「いっ!」
「せー!」
「のー!」
「「で!!」」
JJのジリオンとリョウのソニックガンが、同時に光弾を放った。
時間は少し前に遡る。
アニスが見抜いたガードックの綻び。
「あいつ、少しだけど左足を引きずってる。たぶん、ダメージが抜けてないんだわ」
「ダメージ?」
「私、ここに着いた時にあいつに捕まりそうになって…その時に思いっきり蹴ってやったの」
彼女が示した根拠に、JJは軽く絶句した。
「オレ、見てなかったよ…あいつ相手にすげーな、アニスちゃん」
「元気だったんだな、安心した」
「どーゆー意味よ」
リョウの反応にアニスがぷぅ、と頬を膨らませる。彼女もこんな子供っぽい表情をするのかと、JJは微かな引っかかりを覚えた。
「だから、あいつの左の脛を狙って」
ジリオンの紅とソニックガンの白銀。
ふたつの光は螺旋状に絡み合いひとつの奔流となり、ガードックの左足、膝から下に直撃した。
『お……おォォォ……オ……!!!』
がくん。
ガードックがつんのめり、再び地面に倒れ込む。
自分の体に何が起きたのか、すぐに理解した。
左足、膝から下が“消滅”している。
ジリオンが直撃したのだ。体の一部が消えることぐらい覚悟の上だった。
だが。
“消滅”が止まらない。ガードックの膝、太腿をじわじわと銀光が浸蝕し、細胞を気化させていた。
あいつの、銃の力か。
ガードックは顔を上げ、銃を構えながらゆっくりと近づいてくるリョウを睨め付ける。
このまま終わる訳にはいかない。ホワイトナッツを抑えているナバロにコールを―――
《そこまでです。ガードック》
体を起こしかけたガードックの頭に、“母”の声が響いた。
『アドミス様…!』
《もとより、私は気が進まなかったのです…。貴方の意思を尊重したのは、やはり間違いでした。ドクター・カリガーを待機させています。すぐに戻りなさい》
『もう少しだけ猶予を…! せめて一体だけでも』
《ガードック…!》
“アドミス”の厳しい声がガードックの遺伝子に入り込み、彼の全身を締め上げた。
《貴方は我々ノーザが、得体の知れぬ人間の技術に縋るほど落ちぶれている。そう云いたいのですか?》
『………っ!』
未知の可能性よりも誇りを。それが“母”であり“最高司令官”の意思であるなら。
《戻りなさい、我が子よ》
『……ja』
低い声で返答したガードックの体を、彼より先にアドミスの命令を受け戻ってきたソラールが抱え、彼らは空の彼方へと退却していった。
【惑星マリス/ショッピングセンター】
突然張られた煙幕の向こうにいた、ナバロの猛スピードの「退却」を、アップルとチャンプは呆気に取られて見届けた。
「あいつ…どういうつもりなの」
「まさか…アニスを奪われちまったか?」
そんな、とアップルが云いかけた時、彼らの目前で小型の車が急停車し、窓からデイブとエイミが顔をのぞかせた。
「チャンプ! アップル! 大丈夫!?」
「エイミ! …アニスは!?」
「アニスは大丈夫だ。来たんだよ、“ボーグマン”が!」
運転席のデイブの返答に、えっ!? とアップルとチャンプが目を丸くした。
「近くにライディングセプターを停めてある。早くセントラルパークへ行こう! JJもそこにいる!」
【惑星マリス/セントラルパーク】
2人のノーザ・ウォリアーズの退却を見届けたJJとリョウは同時に銃を下ろす。
行き交う衝撃で激しく揺れ続けていた湖面に静寂が戻った。
「どーよ! やっぱりジリオンの方が凄かっただろ!?」
JJが勝ち誇った顔をリョウに向ける。
「そうだな」
リョウは素直に認めた。
「あんな風に、妖魔の体を消し飛ばす威力なんてなかったからな…さっすが異次元、ってとこだな」
もっと云い返してくると思っていた相手の称賛に、JJは軽く拍子抜けすると同時に好感を抱いた。
「……自己紹介、まだだったな。オレ、JJって云うんだ」
そう云ってJJがリョウに手を差し出した、その時。
「リョウ!」
突然駆け出してきたアニスがリョウに飛びつき、彼の首に腕を回して思い切り抱きつく。自分を狙っていた強敵の撃退を確認したことで、ずっと抑え込んでいた感情が爆発した。
「リョウ!、……リョウ!」
「お、おい」
リョウの顔が真っ赤になったことがバイザー越しでも窺える。慌てて体を離そうとするが、アニスの目尻に溜まった涙と、微かな腕の震えに気が付いたリョウは、宥めるようにアニスの背中に腕を回した。罪悪感がふたたび頭をもたげる。
「……ごめんな、あの時、助けてやれなくて」
「いいわよ、迎えに来てくれたんから。……あ、でも…」
リョウが後ろめたさを感じなくていい言葉を、アニスは咄嗟に探した。
「…そうね、フェイムブロックの新しいスイーツショップ、あそこのスペシャルパフェで許してあげる」
「…全部食ったらタダになる、ってアレか? 太るぞ」
「それはチャレンジパフェでしょ、もう」
目前でふたりの世界を見せつけられたJJは、恥辱で顔が赤く染まっていくのを止められなかった。
何が運命だこんちくしょう。
『恋人? いないわよ、作るヒマもなかったし』
アニスの言葉を都合よく解釈して、こういう可能性から目を背けていただけだ。
彼女の心には鍵がかかっていて。
それを外す相手は既に決まっていた。
そして、その鍵を手にできるその相手は、アニスを探し出すことを諦めるような、そんな脆弱な意志など持ち合わせてなかったのだ。
その男は、彼女の“ヒーロー”なのだから。
「…あ、悪い、JJ」
茫然と立ち尽くしているJJを振り返り、リョウはヘルメットを外しそれを傍らのアニスが受け取る。
黒髪に黒い瞳の東洋系の童顔。年頃もJJとそう変わらないだろう。
だが、意志の強さを湛えた上向きのまなじりと、やや大人びた雰囲気はJJにないものだった。
「オレは響リョウ。ずっと、アニスを守ってくれてたんだな。ありがとう」
そう云ってJJに手を差し出す。親しみを覚えずにいられない気さくな笑顔と、そんな彼の横顔を微笑混じりで見つめるアニスの、熱を帯びた瞳。そして今の2人の自然なやりとりが、JJを更にみじめにさせた。
「あーー……」
俯き、小声で呻いたJJは、右手を頭の上まで振り被らせる。
「そーゆーことか、よ!!!」
そう声を張り上げ、振り被った手を差し出されたリョウの掌に、思い切り叩き付けた。
ぱーーーーーん。
バルテクターの特殊コーティングで覆われた手を、生身の人間が全身全霊を込めて平手で打つとどうなるのか。
実践したJJの絶叫が、セントラルパーク中に響いた。
(続く)
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