はい最終回です。と云いながら、まだちょっと何かあるようです(´ー`)
お話としてはもうほとんど終わってて、今回はほぼエピローグですがどんな塩梅でしたでしょうか。ジリオンのファンの方に怒られはしないだろうかとキョドっていたんですが何もなく。みなさんやさしいんですね…(ホロリ)。
前回の話でアドミス様にちろっと出てきていただきましたが、わたしの中ではああいう“ビッグマザー”なので、歌姫のヒスBBAは受け入れ難い。元ネタの映画のテンプレに押し込める為だったんでしょうけどアレはちょっとなー。そして人間関係はやっぱり収まるところに収まりました的な。JJの寅さん属性勝利で良かったねリョウ(えっ)。
思えばついったで、ジリオンとボーグマンのクロスオーバー云々とネタで呟いた後に脳内でほろっと出てきた妄想を出力しきるとは思ってませんでした。しかも長編。絶対途中で飽きると思ってましたし、なんせ創作の文章はスキルが足らないBBAなので、時間が経ったらきっと後悔の念にさいなまれると最初は後ろ向きだったんですが、文章が脳汁と一緒に出てきて止まってくれなかったので、ワードエディタに打ち込んで整理するしかありませんでした。出来不出来はともかく、長編を書き切ったことでヘンな自信がついたので、これからも頑張ろうと思った次第です。
ではもうちょっとだけお付き合い下さい。
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セントラルパークに駆け付けたホワイトナッツの面々が遭遇したのは、未開の部族の儀式のごとく、グローブ状に腫れ上がった右手を抱えぴょんぴょん飛び跳ねているJJと、それを唖然と見つめているアニス。そしてまったく見慣れないデザインの、青い装甲スーツの男の姿だった。
「あれが…アニスの云ってたボーグマン…あれが“バルテクター”か……!」
感極まったようにデイブが呟く。
「彼、…リョウでしょ!? アニスがいつも云ってた!」
ガールズトークでアニスから聞き出していた“彼”の存在に、エイミのテンションが上がる。
しかしアップルは別の方向に視線を向けていた。
「ねえチャンプ、あれ…」
アップルがチャンプを促した先に。
深緑の装甲スーツを着た長身の男が腕を組み、ライディングセプターのサイドカーを両翼に付け替えたような、変わったデザインの大きなバイクと共に、少し離れた位置からリョウとアニスを見つめている。彼らに気付かれないよう、こっそり観察している気がした。
その彼がこちらに気が付き―――顔を覆うイエローのバイザー越しでも分かるほど、ぎょっとした表情を浮かべた。
男がバイクから離れ、こちらに近づいてくる。彼はチャンプを凝視している。気がする。
その歩みはやはりチャンプの前で止まり、ゆっくりとヘルメットを外す。チャンプを見つめる神妙なその素顔を前に、一同の時間が一瞬止まった。
チャンプの中で燻っていた疑念が吹き飛んだ。
アニスの云ったことは本当だった。
ブロンドの髪、面長で端正な顔立ちは、一瞬見分けがつかないほどに各パーツが似通っている。相違点は装甲スーツの男の方ががっちりした体格で、身長も190センチ近くあることぐらいだった。
戸惑いを隠せないまま、装甲スーツの男が口を開く。
「………どうも」
「あ、…どうも」
装甲スーツの男とチャンプは、ぺこりと同時に頭を下げる。
「…えー、と…、あんたたちが“ホワイトナッツ”か。アニスが世話になったみたいだな。感謝する」
装甲スーツの男が差し出した手を、チャンプは一瞬逡巡した後、しっかりと握った。
「…あんた、アニスの云ってた“チャック”だな? オレはチャンプ」
「チャック・スェーガーだ。…その、何だか他人の気がしないな」
「オレもだ。逢えて、嬉しいよ…! アンタとは話が合いそうだ。そんな気がする」
「どうしてかな、オレもそう思う」
チャックとチャンプは改めて、両手で固く握手を交わし合った。
みるみる親交を深めていく2人の様子を、エイミ、アップル、デイブが感慨深げに眺め、順番にコメントを発した。
「…すっごーい」
「ねえ、本当に」
「そっくりだな」
「「「特に声」」」
最後は3人同時でハモった。
時空のトンネルを構成するエネルギーが弱まり、メモリーに促されるまでのしばしの間。
ホワイトナッツはボーグマンチームを基地に招き、交流を楽しんだ。
デイブは音声のみだったがメモリー・ジーンと念願の接触を果たし、デイブの熱意に感心したメモリーはサンダーに搭載されているライブラリへのアクセスを許可し、デイブにデータを提供。その確認作業と引き換えに、この交流会を欠席した。
「…平行世界ってあるだろ。アンタ、この世界のチャックだったりする?」
リョウは興味深そうにチャックとチャンプを見比べる。
「どうかなー」
「どうだろうなー」
「ステレオ放送は止めろ。…なんだってそんなに声が似てるんだよ…」
「やだ、エイミ泣かないで」
談笑中、突然涙をこぼしたエイミの手をアニスは優しく握る。
「……だって、もう、アニスとは……」
「私も寂しいわ、アニス」
エイミの手を握るアニスの手に、アップルが手を重ねる。
「…でも、不思議ね。アニスとはまたどこかで会えそうな気がしてるの」
「そうね、時空の座標が特定できたのなら、メモリーがどうにかしちゃうかも」
「じゃあ、さよならは無しね。またね、アニス」
アップルとアニスは笑顔で手を握り合う。
「ええ、またね、アップル」
『オパオパ、アニス、マタネ、マタネ』
「お、こいつ面白いな」
リョウが笑顔でオパオパに手を伸ばした。
そんな微笑ましい談笑の輪から外れたJJは、不貞腐れた態度でひとり菓子と飲み物を口にしていた。
そして、結局。
自分の想いは告げることなく、仲間と共に時空の彼方へ去り行くアニスの背中を見送ったのだった。
【惑星マリス/エピローグ】
「……はあ……」
ホワイトナッツ基地の武器開発ルーム。
デスクに突っ伏したまま、デイブは何度目かの溜息を漏らした。
アニスが元の世界に帰って行った数日後。
メモリー・ジーンが提供してくれた、数々の魅力的な武器データを具現化するべく、予算の見積もりをMr.ゴードに提示したのだが―――
『……デイブ。君の熱意は買う。だが、これだけの莫大な予算を引き出すには、上層部を説得できるだけの根拠が必要になるが…君はそれを彼らにどう説明するのかね?』
デイブは絶句した。まさか「異次元の女性科学者から提供されたデータです」などとは云えないではないか。
云ったところで、誰が真面目に取り合ってくれると云うのか。
「……はあ……」
まさかとは思うが。
メモリー・ジーンはこうなることを分かってて、あっさりとデータを渡したのだろうか。
「仕方ない。いつか実現できる日まで、このデータは厳重に仕舞っておくかあ…」
デイブは固く、出世を誓ったのだった。
「……はあ……」
デイブがひとり、溜息にまみれていた同時刻。ホワイトナッツ基地のミーティングルーム。
テーブルに頬を乗せ、うじうじと溜息をつくJJに、チャンプとエイミが生温かい視線を送りつけていた。
「なんでだよぉ、アニスちゃーん……」
チャンプとエイミは答えない。アニスが去った後の数日間、もう耳にタコができるほど聞いた言葉だからだ。
「オレのがあいつより絶対いい男じゃーん…」
「そう?」
「そうかぁ?」
だが、容赦ないツッコミは入れる。
JJはがばり、と体を起こし、チャンプとエイミを睨んだ。
「お前ら、友だち甲斐のない奴らだな!」
「まあ、オレの方がいい男なのは確かだが、それでも教養がある分、そりゃお前よりリョウの方がいいだろう。国語の先生だろ? あいつ」
「元宇宙飛行士だって云ってたわ。宇宙飛行士なんてエリートでないと無理よねー」
「バイクレースで世界一になったこともあるって云ってなかったか?」
「経歴詐称だろそんなもん! オレとタメであり得るかーー!!」
ひとしきり叫び、またため息をついたJJの脳裏に、別れの直前に話しかけてきたアニスの姿が浮かんだ。
(今までありがとう、JJ。あなたのお陰で寂しい思いしなくて済んだわ)
そう云って、ぎゅ、と手を握ってくれた柔らかな感触、そして笑顔が忘れられない。
しかし、最後に耳元でこっそり囁かれた、あの言葉。
(もっとアップルと仲良くしなきゃ駄目よ。私、彼女が大好きだから)
あれは、どういう意味だったのだろう。
「……はあ……」
うっすらと浮かんだ疑問は溜息となって霧散する。
消えないアニスの面影を追う度に、後悔が膨らんでいく。
こんな、いつも通りの結末になると分かっていたのなら。
別に、嫌われたって良かったのだ。
「あのおっぱい揉んでおけば良かったーーーーーーっっっ!!!!!」
「サイテー」
エイミが半目で云い捨てる。
「本能しかないオトコって嫌よねー」
なぜがオネエ口調になったチャンプだった。
【メガロシティ/エピローグ】
「…あいつがいない間に訊くけど」
放課後を迎えたサイソニック学園の職員室で、チャックが意味深な微笑みを浮かべ、アニスの隣に座った。
「あのJJってヤツ、君に惚れてたんじゃないのか?」
「まさか」
アニスはチャックに視線を移すことなく、不在の間に溜まってしまった書類を整理し続けていた。
アニスは言下に否定したが、チャックにはそうは思えない。
あの語らいの時間の間、リョウは何度もJJに話しかけていたが、彼はそっけない返事を繰り返すだけ。サンダーに乗ってみるか? というリョウの誘いに負けて少しだけ打ち解けた時には、既に別れの時間だった。
『あいつ、結構人見知りだったな』
あの頑なな態度を、リョウはその一言で終わらせた。
それがリョウらしいとも云えるのだが。
何よりも。
JJがアニスに向ける視線は、ショーケースの向こうの高価な玩具を見る子供のような、なんとも云えないもの欲しさ、切なさを含んでいた。チャックにはそう思えてならないのだ。
チャックはアニスの顔をのぞき込むようにして、小声でもう一度訊ねる。
「…本当に、何もなかったのか?」
「あ・り・ま・せ・ん。…耳、引っ張られたいの?」
「遠慮します。……そっか、おかわいそうなこって」
何やらぶつぶつ云っているチャックを横目に、アニスはJJのある仕草を思い出す。
確かに彼はいつも優しかったし、あの底抜けの明るさに救われていた。
だけど。
アニスに話しかけたり、外に連れ出したりする時、彼はいつも、ちらり、とアップルに視線をやり、アップルの反応を窺っていた。
アニスはそれを見る度、大好きなモーリーに構って欲しくて、わざと意地悪をするシンジの姿を思い出していたのだ。
(ほーんと、体の大きな生徒だったわね、彼)
アニスの口元に、優しい微笑が浮かんだ。
その時、ソニックレシーバーに通信が入る。サンダーからだ。
《アニス、リョウがもうすぐこちらに来ます。そろそろ準備して下さい》
「分かったわ」
通信を切り、書類を一旦机に仕舞う。
「…例の約束かい?」
「そ、スペシャルパフェ。リョウの奢りだから、遠慮なく食べられるわ」
「完食でタダになるってアレか、太るぞ?」
「だから、それはチャレンジパフェ! …もう」
軽くふくれっ面をするアニスに、チャックは柔らかい視線を送る。これだけのハプニングが起きたのだ。ふたりの進展を期待していたら、戻った後はリョウはいつも通りとなり、それはアニスも同様だった。
ただ、アニスが作るリョウの弁当のおかずが増え、リョウもアニスの小さなわがままを聞き入れるようになった。
それが、この2人のペースなのだろう。
「パトロールは引き受けるから、楽しんでこいよ」
ひらひら、と手を振るチャックに笑顔を返して。
足取りも軽やかに、アニスは職員室のドアの向こうへと消えていった。
【P.S】
「も〜、JJったらいじけちゃって…」
「構うなよエイミ。それがあいつの狙いなんだからな」
親身になってくれないチャンプとエイミに腹を立てたJJは、拗ねてミーティングルームのドアの傍、体育座りで蹲ってしまった。
立てた両膝の上に顔を埋めたJJの横で、ドアが開く音がした。
聴き慣れた足音、よく知った女性の優しい匂い。
なぜか、JJは妙な安心感を覚えた。
足元で丸くなっているJJを、彼女はしばし無言で見つめる。
そして。
「いいかげん気が付いたら? 物好きは私ぐらいしかいないって」
え? と顔を上げたその時には。
アップルは既にJJの横を通り過ぎ、テーブルの上に置いてある数冊の雑誌を手に取っていた。
アップルの言葉の真意。JJがそれを知るのはまだ先の、そして別のお話。
(FIN)
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