もうちょっとだけ続いてたんじゃよヽ(´ー`)ノ
はっきり云うと、こういうのをやりたいが為に長文頑張ったようなものです。なのでこれが本編です(えー)。今後また何かやるとしたらこれを踏まえてやってくと思います。
ひとまずこれにて終了。ジリオン単品に関してはかなり気が済んだので、今後はここではなくついったでぽちぽちアップしていく所存。
書きたかったものほぼ全部出したので反省会でもしようかと思ったのですが、現時点ですぐ思いつく反省はアップルをあまり出せなかったことでしょうか。チャックとチャンプもプロットをもっと練れば、もうちょっと気の利いたご対面をさせてあげられたかなあとかそれぐらい。
後で更なる反省点が湧き出てさいなまれるのでしょう。別ジャンルで書いたやおいSSはすべて後悔に負けて粛々となかったことにしましたが、今回のはどうなるか。
来月中旬からプライベートが落ち着くので、いつもの更新ペースに戻せればと思うのですが、この酷暑でバテ気味なのでちょっと自信がない。クーラーの効いた部屋で永遠に引きこもりたいお年頃(駄目すぎる)。
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【BONUS STAGE】
「………、」
妖魔城の冷たい廊下を歩いていたダストジードが、ふと立ち止まった。
メガロシティを囲うように穿つ4つの妖魔石。番人がボーグマンに倒されて以降、管理者不在が続いていたそれに“何か”が起きた。そう、感じた。
だが、それは一瞬の、それきりのことだった。
失態続きのフェルミナが、何か悪あがきを模索しているのだろう。
関知するほどのことではない。
そう結論付けたダストジードは、ふたたび歩き出した。
***
「…痛ってえぇぇ〜〜……」
「いつまで人の上に乗っかってんだ。どけ、JJ」
「もー…、JJったらあんな場所でなんてことしてくれたのよ。……いたた」
「あー、わりぃわりぃ、……って」
チャンプとアップルを敷布団にした状態でひっくり返っていたJJの視界を、巨大な灰色が覆った。
「…なんだぁ? これ」
JJはよっこいせ、と体を起こし、それを背中を逸らすほどに見上げる。隕石のようにも見える、細長くひし形の巨大な石が、地面に深々と突き刺さっていた。周囲を見回すと、似たような石があと3本は刺さっている。
「つーか、オレたち、クリスタルパレスにいたはずだよな? …ここ、どこだ?」
それはつい先程のことだった。
ホワイトナッツはマリス先住民のの聖都「ジリオス」で宿敵リックスの最期を見届け、先住民たちのの聖宮・クリスタルパレスでジリオニウムを発見した。それらを回収したデイブとオパオパ、ウパウパは先にビックポーターに戻り、残った3人は物珍しさに負けて、辺りの部屋を「見学」していたのだ。
そこで、ある一角が3人の興味を引いた。すべてが美麗なクリスタルで構成された小さなスペース。磨き抜かれた床を、フィギュアスケーター気取りで滑って遊んでいたJJが転んだ瞬間、彼のホルダーからすっぽ抜けたジリオンが暴発。光弾はクリスタルの壁でみっしりと反射を繰り返し、逃げようとした3人を直撃した。
そして、どうやら自分たちはこの巨石から転がり出てきたらしい。
「おい、…ちょっと、待て」
チャンプの声が上擦る。巨大な石のオブジェもさることながら、周囲の建物すべてがマリスにはない先鋭的なデザインで構築されている。快晴の空には、日食を起こす衛星リルの存在がまったく感じられなかった。
「まさか…」
アップルの顔が青ざめる。
「私たち、アニスみたいに別の時空に飛んじゃったの!?」
「「な、何だってええええええええ!!!!!!!!」」
JJとチャンプの驚愕の声が絶妙なハーモニーを生んだ。
「おいおいおい! 冗談じゃないぜ!! まだ任務は終わっちゃいないんだ、何とか帰らないと…!」
チャンプは頭を抱え、辺りをうろうろし出す。幸いにも周囲に人の姿はなく、もし誰かいたら通報されても文句は云えなかっただろう。
「お、落ち着けよチャンプ。とにかくデイブに連絡を…」
「どーやって!? デイブはなーんにも知らないんだぞ!? だいだいJJ!! お前があんな馬鹿なことやらなけりゃ、こんなことにはならなかったんだ!!!」
「あーあーあー悪うございましたーーー!!! クリスタルパレスの床がつるっつるだったのも、リルが日食起こすのも、みーーんなオレが悪いんですーーー!!!!!」
巨大な石の前でやいのやいのと小競り合いを始めたJJとチャンプを叱りつけようと、アップルが深呼吸したその時。
「アンタら! なんでここにいるんだよ!?」
JJとチャンプ、アップルが声のした方向に顔を向けると、ノーマル形態のサンダーに跨った“ボーグマン”リョウが目を丸くしてこちらを見ている。パトロール中にサンダーが妖魔石の微かな異変を感知した為、ここにやってきたのだ。
「あなた、リョウ!? …じゃあ、ここはメガロシティ!?」
「リョウ! そうか! 知った顔がいる世界で良かった!! 頼む、どーにかしてくれ!!」
チャンプは涙目でリョウに縋りつく。
「ち、ちょっと落ち着けよ、…えーと、似非チャック?」
「似非チャックって何だ」
「はは、悪い悪い…まあ何だ、また会えるとは思わなかったぜ、アップルちゃん、…と」
「久しぶりだなサンダー! お前こんな形にもなれるんだ!? カッコいいなあ!!」
『ありがとうございます、JJ』
JJが屈んで正面からサンダーと会話している。リョウを視界に入れまいとしているのは見え見えで、さすがにリョウも引っかかるものを感じざるを得なかった。
「おいおい、オレは無視かよ、JJ?」
「あ? 誰だっけアンタ?」
JJが拗ねた目でリョウを見上げる。
「サンダーは覚えててオレは覚えてないのかよ!?」
「そんな訳ないわ。こら、失礼でしょJJ!」
「………」
JJは唇を尖らせてそっぽを向く。我ながら呆れるほど子供じみた態度なことも、リョウがいい奴であることも分かっている。
だが、アニスの心を独り占めしている男だったことを思い出すと、どうしても腹立たしさが先に立ってしまうのだった。
―――ん? リョウがここにいる、ということは…。
リョウの背後で、目を引く派手なデザインの赤いバギーが停車した。
「リョウ、妖魔石がどうしたって? またシンジが吸い込まれ……、!?」
バギーから降りてきたのはチャックと、もうひとり。
「おー!」
「おー!」
チャンプを目に留めたチャックが顔を輝かせてチャンプに近寄り、ふたりは絶妙に両手でハイタッチした。
「なんだなんだ、アンタらもこっちに来ちまったのか」
「話せば長いんだがそうなんだよ! どうにかならないか? 早く戻らないと…」
「まあまあ、メモリーが何とかするだろ。慌てても仕方ないし、この際だからお茶でも飲んでいけよ、ブラザー」
チャンプを落ち着かせるように、チャックは笑顔で彼の肩をぽんぽん、と叩く。
そして一方では。
「アップルじゃない! 一体どうしたの!?」
「アニス! …やっぱりまた会えたわね。こんな形でとは思わなかったけど」
「話は学園で聞くわ。チャックの云う通り、メモリーなら必ず何とかしてくれるから一息入れていって。アップルパイ、好きなんでしょ? 用意するわ」
「…そうね。開き直るしかなさそうだし、ご馳走になろうかしら」
などと、アップルと手を取り合い再会を喜んでいたアニスが、JJを振り返った。
「久しぶりねJJ、元気だった?」
もう会えないと思っていた愛らしい笑顔、抱き心地のよさそうな肢体が目の前にある。
その後、激しさを増していった戦いの日々の中で、埋没していったと思っていた甘い想いが、ふたたび胸の中で湧き上がるのをJJは感じた。
ああ。
やっぱり―――やっぱり、好きだ。
あの
おっぱい。
「アニスちゃあぁぁぁぁん! オレたちやっぱり運命だったんだよおぉぉぉぉ!!!!!」
感極まり瞳をうるうるさせたJJが思いっきり地を蹴り、アニスの豊かな胸目掛けてダイビングする。ふわふわなおっぱいに埋もれて歓喜に溺れる自分を想像しながら。
だが。
わっし。
強烈な5つの指圧が、JJの頭を支配した。
「いだだだだだだだ! 頭!! あたま割れるって!!!」
「……お前……」
地の底から響いてくるような低い声がJJの背後に忍び寄る。その声の主が片手でJJの頭を掴み、彼の甘い想像図を打ち砕いたのだ。
「今なんて、云った…?」
先ほどまでの好青年然とした佇まいから一変し、地獄の門番のような険しい表情をしたリョウがJJを睨み付けていた。
だが、JJも負けてはいない。
「だーかーらぁ、オレとアニスちゃんは運命の赤い糸で結ばっ、…いだだだだだ!!!」
「ンな訳あるか」
リョウの指が万力のように、更にJJの頭を締め付ける。
そういうことだったのか、この野郎。
あのエセ妖魔を追っ払った後の、あのそっけない態度を人見知りなどと思っていた自分が迂闊だった。
こいつ、アニスにそういう感情を。だから。
妙な苛立ちがリョウの中で増殖する。そのリョウに頭を掴まれ、爪先が付くか付かないかの宙ぶらりんな状態のJJは、じたばたしながらアニスを呼び続けた。
「アニスちゃん! またデートしよう! 一緒にクレープ食べようよぉ!」
「何いぃ!?」
「あら、あれってデートだったの?」
頭から湯気が立ちかけているリョウとは対照的に、アニスの返答は淡々としている。
「アディも寂しがってるんだ! オレと一緒にマリスに”っ…あ”ーーーーーっっっ!!!!!!」
めりめり、とリョウの指がJJの頭に食い込んだ。
「もう、離してあげなさいよ、リョウ」
「そ、そーだぞ! アンタはヒーローなんだろ? こーゆーのよくないと思うぜ? な?」
「アニスに悪さしようとしたらその時は止めないから、私に免じて離してあげてくれない?」
「………」
リョウはアップルの目をチラリと見やり、小さく溜息をついてJJの頭を開放した。
「痛っててぇ…、落としたスイカみてーになるかと思ったぜ…」
JJはしばし頭を撫でつけた後、きっとした表情で、苛立ちを隠せないリョウに正面から向かい合った。
「アンタ…」
「…何だよ?」
ずい、とJJはリョウに迫り、声のトーンを落として訊ねた。
「アニスちゃんと、ちゅーしたのか?」
「するか!」
「付き合ってないんだな?」
「ねーよ!」
顔を真っ赤にして否定したリョウに、JJはにまあ、と心底嬉しそうな笑顔を返した。
「なーんだ。だったらオレのこの熱い想いを止める権利はないってことじゃん?」
「なっ…!?」
リョウは絶句した。
今まで、アニスに云い寄る男はいなくはなかった。
しかしアニスのガードは固かったし、そこを強引に乗り越えようとする不届者がいても、自分とチャックがひと睨みしたらすごすごと退散していたのだ。
だが、JJは違う。
自分という“護衛”もアニスがサイボーグであることも、すべて分かった上で本能のままにアニスを求めている。
サイボーグとなってしまった今では、手に入れることのできない生身の人間の純粋な生命力。その塊のようなJJに、アニスが押し切られないと誰が断言できようか。
―――こんなケダモノが、ずっとアニスの周りをうろうろしていたのか。
云い様のない怒りと焦燥感がリョウの心に湧き上がる。だが、その理由はリョウ自身もよく分かっていなかった。
「…帰れ」
妖魔を見るような剣呑とした目付きで、リョウは改めてJJを睨み付ける。
「アニスはオレの仲間だぞ! お前みたいな野獣に任せられるか! 帰れ!」
「だーかーらー、帰り方が分からねーんだって。ヒーローのクセに冷てーのなー」
「何とでも云え。…ああ、アップルちゃんと似非チャックはゆっくりしていってくれ」
「誰が似非チャックだ」
「誰が似非チャンプだ」
リョウとJJの対峙を、黙って眺めていたチャンプとチャックが同時にツッコミを入れる。
「だからステレオ放送は止め…、っ!」
リョウの隙を突いたJJが、瞬歩を疑う勢いでアニスに駆け寄る。
「アニスちゃぁぁん! 帰る方法が分かるまでこの街案内し…ぐぇ!」
JJのアプローチは、咄嗟に彼の襟を掴んだリョウによって阻まれた。
「油断も隙もねえ奴だな! 帰れっつってんだろ!!」
「だぁあもー離せよ! だから帰れねえっつってんだろ!」
「だったらオレが手伝ってやる」
リョウはふたたびJJの頭を引っ掴んで、ほらほらほら、と掛け声と共に妖魔石にぐりぐり押し付け始める。完全に据わった眼からは、ボーグマンに変身した時の、毅然としたヒーローの面影は消し飛んでいた。
「いでででででででで!!! 鼻! はにゃがつぶれゆって!!」
「お前こっから出てきたんだろ? 根性でどうにかして帰れ」
「ふじゃけんな! こーなったらぜってぇ帰んねーぞ!! アニスちゃーーーん!!!」
「あれ、ほっといていいのか?」
期せずして起きたリョウとJJの修羅場を半目で見物しつつ、チャンプがチャックに訊ねる。
チャックは人の悪い笑みを浮かべていた。
「いーのいーの。こういうことでもないと、あいつその気にならないしな」
同じ体のサイボーグで職場も同じ。リョウは今まで、そんな自分の立場に甘えていたのだ。これぐらいのスパイスはあった方がいい。
「ならいいが…アンタ、面白がってないか?」
「あ、分かっちゃう?」
にんまりと口元を緩ませるチャックの横顔を見やった後、チャンプも同じような微笑を浮かべてリョウたちに視線を戻した。
「たんまたんま! ち、ちょっと話し合おうぜ?」
後頭部にかけられた圧力に耐えかね、JJが懇願する。JJを思いっきり妖魔石に押し当てていたリョウの手が少し緩んだ。
「…分かったよ、じゃあデートは諦める」
「アニスを諦めろよ」
「その代わり、さ…」
「オレの話聞いてねーだろ」
「少しでいいんだ、少しで…」
JJが黒い瞳を潤ませ、切なげな眼差しをリョウに向ける。捨てられそうになっている子犬を想起させる態度に、リョウの良心が僅かに反応した。
どうせこいつは帰るしかないんだ。話をするぐらいなら…
しかし。
「あのおっぱい揉ませてくれ」
「帰れーーーーーーーーーっっっ!!!!!」
茹蛸のように顔を赤く染め、怒り狂ったリョウの絶叫がメガロシティの空にこだました。
「もう、構って欲しいなら素直になればいいのに…」
ぽつりとつぶやいたアップルの横で。
騒ぎの原因であるアニスは黙って彼らの狂態を眺めている。口元の微かな笑みが何を意味しているのか。それは乙女のヒミツであった。
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