2019年09月01日

【30周年】ここが変だよ! ラストバトル【後日談】

lastbattle-65.jpg


という訳で本日で30周年を迎える「ザ・ボーグマン ラストバトル」でお送りします。9月はこれとリョウ誕で終始しそうですご了承下さい。
満を持して…と云いたいところですが、再燃して見直してあまりにもあまりな内容に愕然としてしまい、なかなか採り上げる気にならずに先送りにしていたらこの日を迎えてしまったというのが正直なトコロ。

本当に私見ですが、ラストバトルはひとつのOAV作品として見たら普通に面白いんですよ。火鷹というマッドサイエンティストが開発した戦闘兵器としてのサイボーグと、それを良しとしない「正義の」サイボーグであるリョウ・チャック・アニスが、互いの信念を賭けて戦うだけのシンプルなストーリー、作画&演出も丁寧で見やすく、気軽に楽しめる「プロテクトスーツバトル」としては上出来な内容だと思います。

しかし、「超音戦士ボーグマンの後日談」として見ると欠陥だらけの粗悪品。それでも「駄作」と罵しるには、前述の通り「ボーグマンへの思い入れを捨てればそれなりに楽しめる」程度には出来がいいという、非常に始末に困る作品なのです。

ラストバトルはその制作過程において、「超音戦士ボーグマン」を構成していた大事な要素をごっそり削いでおきながら、それで「何がしたかったのか」が見えにくい。ファン視点だと「いつの間にか同棲関係になっていたリョウとアニスが唐突に痴話喧嘩をはじめ、なんかやんああって仲直りしてめでたしめでたし(?)」というだけの話で、それを一方的に捲し立た根岸監督は「ハイこれでボーグマンは終わりですまた次回作で会いましょう」とファンの反応も見ざる聞かざるを決め込んでさっさと立ち去ってしまった。そういうイメージなんですよね。
正直、続編を作る気のない監督に無理やり作らせちゃ駄目、という見本じゃないでしょうか。ボトムズの「赫奕たる異端」も高橋監督は本当は続編を作りたくなかったそうで、その結果「フィアナの死」という、ファンにとって飛んだ藪蛇な展開を生んでしまった訳ですし。おすし。

とりあえず、今回はラストバトルの疑問点をピックアップ。「何がいけなかったのか」は次回から順次考察していきます。

lastbattle-1.jpg

lastbattle-3.jpg


出て来るなり痴話喧嘩をはじめるアニスとリョウ。アニスがリョウの手を取る場面ぐらいでしか2人の男女関係が示されておらず、「いつの間にそういう関係になったのか」というフォローは最後までされないまま。

lastbattle-4.jpg


TVシリーズでは自分よりも他人の思いを優先する主人公だったリョウは、アニスのお願いをあっさり袖に。まあアニスも性急すぎたし、リョウも「ちょっと待ってくれ」ぐらいの気でいたんでしょうけど。

lastbattle-5.jpg


ラストバトル最高の元凶にして、根岸監督という“神”の代行者ハッサン。ハッサンの立ち回りは、そのまま「お話の都合」として中盤まで反映されていきます。ここでリョウを引き留めた理由は最悪の二文字。「俺の云う通りにしておけば間違いないので追いかけるな(ここでお前が後を追ってアニスと仲直りしたら話が進まねーじゃん)」というコトなんですよコレ。以降もハッサンは、リョウから選択肢を奪って勝手に決める「ご都合キャラ」として暗躍します。

lastbattle-7.jpg


リョウとアニスの家の前に放置されているサンダー。この場面ほど「ファンとスタッフの作品に対する温度差」が出ている場面もないんじゃないでしょうか。TVシリーズではリョウたちと共に戦った「仲間」がラストバトルではただのバイク扱いで、スタッフ的には「出さないよりマシ」で「ファンがニヤっとする演出」のつもりだったんでしょうか。控えめに申し上げても剣狼3のジェットドリルジムのモブ転落以上にゆるされない蛮行ですけど。
この辺りの絵コンテは(多分)根岸監督、演出は(後にラバレの監督となる)村山氏で、村山氏はアニメVのラバレ連載記事で「カバーぐらいかけろよ!」とツッコんでいたので、根岸監督ギルティということですね。

lastbattle-9.jpg


ちゃんと話し合わずに、一方的に別れを告げて出ていったアニスもアニスですが(いろいろ限界だったのかも知れんけど)、これを「まいったなー」で済ます主人公。リョウってアニスをそこまで追いつめていた、自分の行いを後悔するタイプだと思うんですが…。というか、3年後の設定でアニスとそういう間柄で、一人前の青年になってないとおかしいのに3年前とほとんど変わってない。それどころか退化している気がするんですが。チャックと美姫も3年後を思わせる大人の仕草を見せているのに、リョウだけがそれを許されなかったんですよね。

lastbattle-13.jpg


リョウとアニスの関係におけるキーアイテムであるぬいぐるみ。ラストバトルのパンフによると、どうもリョウのプレゼントらしい。このぬいぐるみはアニスの「リョウへの想い」の象徴で、だから火鷹に触らせなかった。アニスが手放さない限りはリョウとの関係は終わることはない。というファンに対する暗示だったのかなあと。

lastbattle-14.jpg


ハッサンと双璧のご都合キャラにして、厨二設定レベルのキチガイ科学者火鷹。本当は知ってるクセに「結婚は?」「恋人は?」とグイグイ押しているということは、資料だけでしか知らなかったアニスに実際会って一目惚れし、好感度上げて穏便にゲットしよう、という腹積もりだったのかも試練。実際はそういったメロドラマにはならなかった訳ですが。アニスと火鷹のホットな場面でかかる「すべては愛の中に」は山寺&鷹森でないと説得力ないんじゃないの。アニスが火鷹にガチNTRれる展開なんて誰得なのか、ですが、スタッフは途中までそのセンで進めていた節があるんですよね。

lastbattle-58.jpg

lastbattle-59.jpg

lastbattle-60.jpg


アニスの回想。TVシリーズでは描かれることのなかったアニスの授業シーン。3人で過ごした日々。いいよね…。火鷹はメガロシティに起きた3年前の惨事を「大崩壊」と呼び、アニスにとっては「夢の中の出来事」。遠い過去となりつつあったのですが、頑なに「妖魔」という単語を出さないし、アニスがそこで戦った「ボーグマン」であることも極力出さないようにしているのが不自然といえば不自然。

lastbattle-15.jpg

lastbattle-61.jpg

lastbattle-62.jpg


私的にラストバトル最高の胸糞場面。ハッサンのアドバイスに従ってアニスを追わなかったらアニスはいなくなりました助けてハッサンえもん! 仕方ないなあリョウ太君はー(ゴソゴソ)ハーイでんどうチェーンソー! ゴリゴリギャギャギャ〜!!→ロケットに亀裂が入った! 金属疲労で再チェックしないと! ロケットの打ち上げは3か月後!→茫然とするリョウに「行ってこいよ(ドヤァ)」
怒りだ! もう怒りしかない! リョウのセリフを騒音で誤魔化し、彼のアニスへの想いが語られる描写を回避したことも、ハッサンが自分のやらかしが裏目に出たことを謝罪するどころかロケット損傷で誤魔化し、ロケットの打ち上げを夢見て日夜奮闘してきたNASAの人々をどや顔で裏切ったところとか、リョウがハッサンの行いを咎めないところとか(リョウってそういう周囲に迷惑をかけることを嫌うキャラだと思うんですが)、根岸監督にとって都合のいいルートをハッサンを使って敷いてるんですよ。

lastbattle-64.jpg


実はハッサンも気になるテレックスを受け取っていたのでメガロシティに行く気でした。あれ? もしかしたらこのヒゲ、ロケット損傷DE打ち上げ延期は自分のためにやったの…? ハッサンもリョウも互いがボーグマン計画の関係者だと知った後、美姫が関わっている謎のボーグマン事件の真相を知る為に、2人は即メガロシティ行きの準備に入ります。
…ヒゲがメガロシティに行く気だったんなら、ロケット壊すなどという不穏な手段に出る前にリョウに打診するよね? リョウだって「ボーグマン」が起こした事件があると知ったら、ロケットの打ち上げがあろうがそっち選びますよね? 彼は本来「ヒーロー」な訳ですから。え、ロケット損傷って意味なくない? そりゃ延期するに越したことありませんが、作劇的にはロケットよりアニスだとはっきり云わせてこそじゃないのか。リョウにロケットよりもアニスが大事と意思表示させず、最後まで煮え切らない態度を取らせた罪はでかい。
さらにタチの悪いことに、これによってリョウの関心がアニスではなくボーグマン事件になってしまい、彼にとってのアニスの優先順位の低さが際立ってしまう場面になったのでした。アニスだとぐずぐずしてたクセに、ボーグマン事件だと即決だもんなあ…。

lastbattle-20.jpg

彼女にガン見される元プレイボーイ。

lastbattle-21.jpg


六本木の中華料理屋を待ち合わせ場所に指定したクセに、中華料理分からねえとか云う小粋なアメリカンを小一時間問い詰めたい。しかし電話の相手がアニスだと分かるまでの、チャックの声の微妙さがじわじわくる。井上さん上手いなあ。美姫めっちゃ見てるし。
隣同士で座り仲良さげなチャックと美姫に対して、アニスの隣が空席な構図がなかなか容赦なくて笑っちゃいますな。この場面で、アニスは拗ねているだけで深刻な喧嘩ではないということも描かれていて、作中でいちばん微笑ましい場面となっています。アニスとチャックがゆっくりと言葉を交わすのもいい。そういう場面はTVシリーズではなかったですし。

lastbattle-69.jpg

lastbattle-71.jpg


火鷹の正体を知るアニス。ここの問答がまったくよろしくない。人類の進化云々で後にお出ししたのがあのオメガ。それ以前に、熱心にサイボーグを称賛するクセに火鷹自身は生身の人間のままという時点で、彼の主張が厨二病の黒歴史ノートレベルになっちゃってるんですよ。火鷹も設定が迷走したキャラだから、根っこが安定しなかったんでしょうなあ。
火鷹の主張に対するアニスの反論が最高によろしくない。ここはまた後日別の記事で。

lastbattle-22.jpg

ハッサンのロケット損傷が原因で予定していた飛行機に乗れませんでした。

lastbattle-23.jpg

(あ、アニスもメガロシティにいたんだっけ…忘れてた…)え? ちがうの?


アニスが囚われたところでやっとリョウ到着。ハッサンというスタッフの妨害がなければ、とっくに着いていたはずなのにねえ…エピソードを積み重ねずに、強引に一本道にしている感。
チャックと美姫に再会し、「ハッサンの拘束」から解放されたリョウはここから本来のリョウに戻ります。同時にハッサンがピタっと出しゃばらなくなったのが分かりやすい(ペッ)。

lastbattle-28.jpg


ついったでも書いたんですが、
火鷹「仲間になってもらいたくてね」
チャック「仲間になってもらいたくて椅子に縛り付けるのか?」
火鷹「(チッ…)もう何を云っても無駄だな」


メモリーが残した最高の研究材料、素材としての価値も高いのに

男は殺す。女は仲間(当然下心アリ)。

という結論ありきのキチガイと会話しても時間のムダという見本。そもそも会話になってなくてフイタ。

lastbattle-31.jpg

lastbattle-35.jpg

lastbattle-44.jpg

lastbattle-45.jpg


アニスを追い最上階まで階段を上り切るリョウ。スタッフは「愛ゆえに」という演出のつもりだったんでしょうが、リョウは助けを求められたら全力でそれに応えようとするヒーローであることは、ファンなら周知の事実。捕まってるのがチャックでもシンジでも、同じように駆け上がったと思うんですよ。なもんで納得してあげられない。これは終盤、リョウを助けるために火鷹の縛めを解き、血まみれの手で端末を操作したアニスも然り。助けにきたのがチャックでも彼女はそうしたはず。ホンマりょあにを掘り下げないスタッフやな。

lastbattle-36.jpg

lastbattle-43.jpg

lastbattle-48.jpg


オメガ戦は(多少云いたいことはありますけど)カッコよくて好きなんですが、リョウに気持ちよく勝たせてあげれば良かったものを、ご丁寧にまた窮地に陥れてアニス頑張れ! 愛するリョウを助けるんだ! というスタッフのお膳立て感がちょうムカつく。だからアニスはリョウでなくても同じことしたはずだし。何よりこの後、リョウがオメガにトドメを刺したのは鉄拳ではなくソニックガン乱れ撃ちというのが最高にイケてない。こういう点といい、結局リョウは精彩を欠くことになっちゃったんですよねえ…。
オメガ戦そのものに関してはまた別記事で。

lastbattle-54.jpg

毟ってやりたい。この糞ヒゲの腕毛。

lastbattle-55.jpg

lastbattle-68.jpg

ラストの笑顔。リョウに向けられているようで、実はリョウの向こう側の視聴者(ファン)に向けられたものじゃないかしら。と思うと素直に見れない。


これまたモヤっとするエピローグ。アニスは来ておらず、リョウは「あいつにはあいつの道があるから」と諦め顔。ねえちょっと待って。「助けに来てくれて感謝しているけどそれはそれとしてやっぱり私達別れましょう」ということに(リョウの中では)なってるの? アニスは自分のためにボロボロになるまで戦ったリョウに対して、(寄りを戻す気でいたとはいえ)そういうフェイントをかけて平気な娘なの? ロケットを優先された仕返しだけはしたかったというのもちょっと…アニスを助けに来た時点でリョウの禊は済んでるはずだし。
糞ヒゲの「見送りにぐらい来てもいいのになあ(ニヤニヤ)」が心底ムカつく。アニスが機内で待っていたのは絶対こいつの入れ知恵に決まってるんですが、スタッフの黒子としての最後の仕事というのがもう本当に嫌。こんなオリキャラごときに、リョウたちの絆に介入させるのは止めて欲しかった。

この辺のツッコミどころを掘り下げる形で、ラストバトルをこき下ろしていこうと思います。でも褒めるべきところはがっつり褒めます。ここ最近ずっと園田氏を罵ってばかりいますが、根岸監督にしてもベターであってもベストじゃないんですよ。園田氏の100倍はマシというだけで(やや誇張)。

次回はラストバトルの資料(根岸監督インタビュー等)を掲載予定。これらがないと語れない事柄が多いので。
posted by はらよしかず at 12:00| ボーグマン