という訳で、前回は資料が中心でしたが、今回は本題となる
28話感想です。
以前の考察と異なり、剣狼伝説等、
園田氏の代表作に触れた上で視聴するとさもありなん、という感想。園田氏はクロ逆トークショーで、
演出に脚本を変えられることがままあったと語られており、それは
ボーグマンでもあったと根岸監督がインタビューで告白されていました。たぶん園田回は
特に演出サイドの介入があったんでしょう。
しかし28話は
園田氏の手癖と情念が終始見え隠れしていることから、28話に関しては
絵コンテでの変更はほとんどされてないと思われます。むしろ演出ぐるみで、
園田氏が脚本に込めた主張が、池田氏の美麗な作画も相まって丁寧に描かれております。
神回レベルのクオリティで主張されたものは
「アニスの挫折と成長」「アニスの過去」そして
「リョウとの恋愛フラグの撤去」。園田氏の中で独り立ちしたアニス・ファームというヒロインを、どれだけ
氏が愛おしく思い、「園田英樹ブランドのヒロイン」として成立させようとしていたかが
ストレートに伝わるエピソードです。それ故に
アニス以外のキャラの影が薄く(特にリョウ)、
本編の流れから微妙に浮いた内容となっていたりします。現在でも(アニスメイン回として)19話ほどに話題にならないのも、
園田氏の思い入れが前面に出過ぎているからじゃないでしょうか。
・重苦しい空気が漂う
27話のラストから一変し、治療中のアニスから始まる冒頭。アニス以上に致命的なダメージを受けていたはずの
リョウとチャックがあっさり快復していて拍子抜けます。
・確かに27話を引きずるのは重すぎますが、空気感が
日常パートのそれすぎて、会川氏が27話でこだわった
要素のほとんどが一掃されているんですよ。それが
28話に付き纏う違和感で、それは終始変わらないのでした。
・心配させるの分かっていて、何で
子供たちをアニスの治療の場に立ち合わせているのかメモリー。
・いや分かりますよ。それが後に
エピソードの要となる、
モーリーとアニスの交流のための布石であることは。その「描きたい構図」「主張したいテーマ」に、
キャラを強引に落とし込むのが園田脚本の特徴で、そこがハナについて仕方ないんですよ。
・「アニスはまだ悪そうだな…」の
リョウの空気の読めなさが凄い。27話で
アニスのために命がけでソニックブースターを発動させたリョウと同一人物とは思えない。アニスに向ける視線が
どこか空々しくて、これまた終始変わらないところに園田氏の
「この2人はくっつきません僕が認めません絶対にノウ!」という意志の漲りが感じられます。
・剣狼シリーズを見た後だと、
それぐらいのことはやるだろうと納得できてしまうのが悲しいトコロ。ホビージャパンだったか、レイナ絡みのコラムで
「自分は計算するタイプ」と語っておられましたが、
情念が先走るタイプじゃないのかしら。剣狼が
計算で成立した物語とは微塵も思えないンですけど。
・アニスが快復していないことを察して、
自分たちの無力を痛感する子供たちの描写は悪くないんですけどねえ。シンジモーリー乱堂トオルの、
それぞれの思いの吐露がらしくて良い。
・シンジいわく
「ボクたちは妖魔をやっつけることができる訳じゃないんだ」はいここ
Bパートまでちゃんと覚えておきましょうねー(イラッ)。
・
バルテクターの形状から逆算してダストジードの顔を割り出すメモリーの分析能力しゅごい…。いやいや
とっくに顔はご存知ですよね…? レミニスの画像が入ったメモリーの
ペンダントの中のディスク、あの当時では
シャレた近未来の小道具だったんでしょうなあ。今なら
SDカードですかね。
・まともに歩くこともままならず、
海辺で転んでしまうアニスに駆け寄ろうともしないリョウとチャックの不自然さよ。ここ、
「アニスを救うのはモーリーの役目だからお前らは何もするな。特にリョウお前はボンクラでいろ」という
神の指令で「何もさせてもらえない」状態になってるんですよ。岸間&会川氏だったら
まずやらせなかったことを押し通してる訳で、ホントそういうとこなんですよね…。
・というか、超者まで見てやっと気付いたんですが、園田氏は
「悩んで心を閉ざして周囲の気遣いも疎ましがる」というテンプレが鉄板だったんですね。キャラの魅力や面白さに繋がってるかと云うと
全然ですが。むしろ超者はそこが
特大のマイナスになってますし。
・転んだアニスの前に現れたモーリーは、アニスを抱き起しながら
あたしたちだって戦える、ボーグマンの手助けがしたい、と健気にアニスを励ましますが、アニスには当然
モーリーでは無理なことは分かっている。その「あなたには無理」が
昔メモリーに云われた情景と重なり、思わずモーリーを突き放します。
・すぐに謝罪しますが、
ショックを受けたモーリーは駆け出してしまい、落ち込んで崩れ落ちるアニス。ここから回想に入りますが、男2人が
目の前で起きたこの出来事に何の対処もしなかった(させなかった)というのがムカつく。お節介だろうが何だろうが、とりあえず
何かしらアクションを起こすタイプだと思うんですけどね2人とも。少なくとも「オレにはアニスを見ていることしかできない」と
傍観を決め込むのはリョウらしくない。・アニスは
スペースブロックの見学に訪れて妖魔に襲われたとありますが、園田氏はここに
「歌手になるためにオーディションを受けに来日していた」という、リョウとチャックが宇宙に行くという夢を持っていたように、
アニスにも歌手という夢があったという設定にこだわっていました。これが省略されていたのが
今となっては意外です。園田氏が構想していたはずの
「アニスアフター」を描く上で重要な設定だったはずなので。
OUTの記事より。
アニスの過去設定は二転三転した形跡が窺え、園田氏が相当に手を加えたのか、
Pや他スタッフと検討を重ねた結果なのかは不明。
アニメージュのあらすじ紹介文より。
歌手志望だけでなく、アニスにはボーグマンシステムだけでなく、
事故で亡くなった子供たちの臓器が移植されているというプロットもあり、「子供たちに生かされている」
としたかった様子もあります。没になったのはエグいからでしょう。
・「妖魔に殺された子供たちの無念を晴らす為、そして今は生徒たちを守るためにボーグマンとして戦う」と「歌手になる夢を追っていた」の
両方は尺の都合で詰め込めず、泣く泣く後者を諦めて前者に絞ったんでしょうか。ここまで考えて思ったんですが、園田氏は
この28話を会川氏の13話と対にする意図もあったのかもなあ。
・云うのは野暮ですけど、
アニスだけがスペースブロックの惨劇の被害者として、メモリーに手術されてるのが引っかかります。
他にも被害者は相当いたんじゃないの…?
・コールドスリープ状態にあったボーグマンたちは
既に無理だったんでしょうけど、あの時のメモリーが
その場に居合わせただけの見学者の治療ってちょっと無理があるような。というか
リョウとチャックは何してたんだろうか。・こういったことの
背景が見えてこない点とか、如何に
「描きたい要素」で繋いでいったかが窺えます。関係あるようでないンですが、
サイレント某もそういう作品でしたよね。似た者同士だったのかも知れない。
・
メガロビル上空にギルトライアングルが出現することを察知したメモリーの連絡で、リョウとチャックは出撃。その際にアニスに
今回は俺たちに任せておけーと呼びかけますが、アニスは返事もせずに俯いたまま。
「あたしには無理なんだ…」と完全に落ち込んでます。
・俯瞰から見ると、
落ち込むヒロインを放置し続ける仲間たちという薄情な構図で、「アニスなら自分で立ち直ると思う」という台詞を
リョウに云わせているのがまた云い訳がましい。
・
「アニスを立ち直らせるのは生徒(モーリー)」という大前提と、リョウに接近させると
リアルタイムで撤去中のフラグがまた立つから駄目、という園田氏の思惑が丸出しなんですよ。
・ボロクソ云ってますが、サイボーグ手術によって死の淵から生還し、退院の日を迎えたアニスとメモリーの会話は
本編屈指の名場面と断言します。
「厳しいリハビリによく耐えたわね」が泣ける。手術が成功した後も苦しんで、
それを乗り越える強さをアニスは持っていたのかと。
・
普通の少女の顔から戦士として生きる決意をメモリーに見せる瞬間は、
演出と鷹森さんの演技の相乗効果で特に印象に残ります。アニスに関しては
演出にも気合いが感じられて素晴らしいのですが、一方で
露骨にリョウとアニスの間に距離を作っていたのだけはいただけない。
園田氏の意向を全面的に汲んだんでしょうかね。
「絶対に助けますからね」のメモリーの声に
応えるように指が僅かに動くところが好き
この辺りのカットは
勝生&鷹森両氏の演技を含め
すべて最高としか云いようがない
・時系列がよう分からんのですが、この時既にリョウとチャックは
戦闘用サイボーグの手術を受けていたんでしょうか。
彼らを戦いに巻き込むことを望んでなかったメモリーが、一般人のアニスの「あたし戦いたいんです!」という決意を
あっさり受け入れたのがちっと釈然としなかったり。
すったもんださせる訳にもいかないからそうしたんでしょうけど。
・だからまあ、
本当に「そういうとこ」なんですよ。他スタッフ、特に
会川氏が組み上げてきたものを反故にしてでも、「俺ヒロインのアニス」を押し通してるんですよね。
・ものすごく好意的に解釈するなら、メモリーはリョウとチャック、そして
自分のサポートにするなら大丈夫だと思ってたのかも。ジリオンで云えばエイミみたいな。
・リョウたちが向かうメガロビル付近に、何でか
シンジとトオルがうろうろしています。妖魔の居場所を探さなくちゃ! とシンジが
基地からガメた探知機で妖魔を探していました。何でお前さんは人様から物を盗むんだ
許せぬ今から奉行所に行く(半天狗回想自重)。
・
トオルは終始咎めてましたが、シンジは「ボクたちができることは消えた妖魔を見つけることぐらいだろう!?(キリッ)」と
危険へ危険へと突き進んだ模様。27話と立場が大逆転していて、ここも
28話が浮いている原因のひとつなんですよ。
・そうそう、皆さんAパートもですが、
その27話を思い出して下さいシンジが何を云ったのか。
「ボクたちが勝手なことしてどうするんだ!」・ここでシンジを
フルボッコにするのは簡単ですが、作劇上、
ボーグマンの戦う姿を見届ける生徒たちという構図が欠かせなくなっていたので、
シンジを使うしかなかったんでしょう。シンジはもう
「生徒代表」化していて、乱堂を引っ張り出すと散漫になりそうだったし。それでも
30話のブレ方はあんまりですよねえ…。
・こうなると、むしろ27話でシンジの成長を書こうとした
会川氏の方が余計だったのかも知れないなどと。決して間違ってはいなかったんですが、
終盤の構想にはそぐわなかったということかなあ。
・
ボーグマンがまだ生きていたことに驚くダストジードですが、
アンタちゃんと死亡確認しなかったから…27話のラストで
浮かれて哄笑しちゃってやあねえ恥ずかしい。
・ギルトライアングルを降下させるべく、ダストジードの放った妖魔に強襲されるメガロビル。ねえここ
メガロシティの中枢の割に、何で
セキュリティこんなに甘いの…? 小学生も入り込んでますよ…?
シティポリスも世界警察ももっとガード強化してなきゃダメじゃん…19話から
全然改善されてないじゃん…。
・メガロビルに到着したリョウはシンジとトオルに遭遇し、
「余計なことばかりしやがって!」と怒ります。実はリョウが子供たちにこんな
キレた態度を取ったのはこれが最初で最後なんですよ。ぶっちゃけ、シンジの無謀は
園田氏的にも本意ではなく、リョウを使って
視聴者の気持ちを代弁させたと取るのは穿ちすぎでしょうか。
・砂浜でずっと蹲っていたアニスの前に、再び現れたモーリーが手渡したのは、
自分の花壇で育った花。・突き放されても尚、
アニス先生に寄り添おうとするその健気な姿に、やっとアニスは
立ち直るきっかけを掴みます。これ自体はいい場面なんですが、ここを描くために
いろんなものを台無しにしてるので、素直に見ることができない。
・チャックのバギーで出撃しようとするアニスを
「今の貴女の体では無理よ」と止めるメモリー。アニスにとって
地雷だったこの言葉を彼女は乗り越え、バルテクターを装着しメガロビルに向かいます。
・
アニスに無理をさせたくないという配慮からメモリーは静観していたようですが、
根岸監督の解釈は違ったようです。これは後で触れます。
・
27話の妖魔ズほどには強いとも思えない(ダストジードもボーグマン対策は考えてなかったようだし)妖魔機人(?)ガナッシュに
めっちゃ苦戦するリョウとチャック。シンジたちは
サンダーが保護して離れたので、足でまといはいない状況なのに冴えないなあ。まあ
理由はミエミエなんですが。
・2人の大ピンチを救ったのは
颯爽と駆け付けたアニス。立ち直った彼女を前に
「それでこそアニスだぜ!(ヒュー)」。さんざん放置しておいて何云ってんの。
・
妖魔工場DE合体した妖魔とガンウォーリアで応戦するアニス。苦戦しますが、
心に浮かぶモーリーの笑顔、生徒たちの笑顔を支えに妖魔に反撃。その間
ドン臭い行動しかしない男2人。アニスが迎え撃つ前にさっさと
ソニックウェポンぐらい出しておかんかい。・子供たちを守る為にも妖魔なんかに負けられない。自分の弱さにも打ち勝ってみせる。それを描きたかったのは
すごく伝わります。だけど、その後「アニスにおまかせ!」等で出された
裏設定を台詞に反映できてない。アニまかによると、アニスの戦う動機は最初
「メモリーへの恩返し」だったとか、事故に巻き込まれた見学者の子供たちも台詞だけで
1カットも出てきてないので、一連の裏設定は掘り下げどころか、
逆にノイズになった気がして仕方ない。
アニスにおまかせ! より。実際に放映された28話の
内容との齟齬がいちいち気になる。
・なもんで、アニスは退院したらメガロシティでのことは忘れて、
歌手になる夢を再び追うこともできた。だけどリョウとチャックと同様、
夢を封印して戦士になることを選んだ。おそらく園田氏が
必要不可欠としたこの設定を、
28話で全部カットしたのは大正解でしたね。これも盛っていたらアニスがどういうヒロインなのか、
園田氏にしか分からないことになっていたと思うので。
・妖魔を撃退したものの、その隙に
ギルトライアングルはメガロビルに降下。ビル内に留まった
シンジとトオルの運命や如何に!? というところで28話終了。とりあえずシンジは
トオルとそのご両親に土下座しろ話はそれからだ。
・ダストジードと妖魔の犠牲になった
メガロビル職員のことも時々思い出してやって下さい。脱出成功した職員の方が多いと信じたい。
・この通り、最初から最後まで
「すべては(アニスという)ヒロインを輝かせるため」というエピソードだった訳ですが、その為に
リョウとチャックは弱体化してメモリーはアニスを放置。傷つけられてもアニスの手助けがしたいと動いたのが
モーリーだけ(乱堂は何してたの)。
・こういう「ヒロイン我が愛」を
悪い意味でアップグレードさせて生まれたのが「剣狼伝説3」だったんじゃないかと思います。タイミング的にも、剣狼3の制作も進行していたと思われますし。また改めて書きますが、剣狼3がああいう内容になったのは、園田氏が
28話以降の構想に関われなくなったことも遠因してるんじゃないかと思ってます。
ラストバトルのアニスの回想より。このテキストを打っている最中に気付いたんですが、
「メモリーならあんな風にアニスを放っておいたりしない」という根岸監督の「反論」だったのかなと。